LOVE & NEED




『・・・じゃあ、隣の人と本文の読みあいを・・・』



・・・ああ、またこの時間がやってきた。

あたしの苦手な英語の時間。

いや、別に英語自体は嫌いじゃない。

先生も良い先生だし、授業も面白いし。

むしろ好きなくらいだ。

でも・・・


「・・・何変な顔してんの?」


いつも通りのすました顔で、あたしの"隣の席の人"はそう言った。


「へ?う、ううん、なんでもないよ!
さ、早く読みあいしなきゃねっっ!」


隣の席の人――越前リョーマ。

彼が、あたしのこの英語の時間を『苦手』な時間にした張本人。

いや、別に彼が悪いわけじゃないのよ・・・うん。

ただ・・・


「Hello.How are you?
I played tennis with my friends ...」


・・・ただ、英語が上手すぎるだけ。

まぁ、越前くん帰国子女らしいから、上手いのも当たり前と言えば当たり前なんだけど・・・。

そんな彼にこうしてあたしの下手な発音聞かれてると思うと・・・かなり恥ずかしいんだよね・・・///


「... Are you enjoying the holiday?」


そんなことを考えている内に、教科書の読みあいは終わった。

確かこのページってこれで終わりだったはず・・・。


「... I love you. I need you.」

「・・・っえ?」


・・・今、越前くん何て言った?

そう思いつつ、ぼーっと見ていた教科書を目を皿にしてみる。

さっきの文で終わり・・・だよね、やっぱり。

じゃあ、今のは・・・?


「今何て言ったのか、って聞きたいの?」

「うきゃあっ?!」


すっとんきょうな声をあげるあたし。

だ、だって顔を上げたら目の前に越前くんの顔があったんだもんっっ。

驚くのも当たり前ってモンでしょう・・・?


「ねぇ。今何て言ったのか、聞きたいんでしょ?」


驚きに声をなくしたあたしに、先ほどと同じ言葉を言う彼。

表情はいつもの・・・いや、それ以上の余裕を含んだ顔。

・・・にしても、さっきの言葉・・・・。

"I love you."ぐらいはわかるけど・・・にーどって・・・何?

・・・一人頭の中で考えているうちに、いつのまにか彼の顔はあたしの顔の横にきていて。


「『オレはを愛してる。オレにはが必要』ってコト」


そう耳元で囁いた彼は、その後――



 ちゅっ。



・・・・・・。

・・・い、今、あたしの頬を、何か暖かいモノがかすめていったよね・・・?


「・・・な、ななななな・・・!!」


熱くなった頬に手をあてて、口をぱくぱくさせるあたし。

対して彼の方は先ほどと変わらぬ、すました顔。

・・・そして聞こえてくる、クラスの人たちの声。


「き、きゃーっっ!越前くんが・・・!!」

「え、越前っっ?!」


・・・・・?

・・・『きゃー』って一体何・・・


「・・・ってえええっ?!」


がたんっ!


あたしはその場に立ちあがる。

自分のことで精一杯で気がつかなかったけど、いつのまにか周囲の視線はあたしたち2人に降り注がれていて。

若い女の先生――うちのクラスの英語の先生の視線も、しっかりあたしたちの方を向いていて。

先生の手には既に握りつぶされたといっても良いような英語の教科書があった。


「・・・越前くん、さん・・・」


ああ・・・先生の怒りが目にはっきりと見える・・・。

違うんです、先生・・・あたしが悪いわけでは・・・って言っても無駄ですよね・・・。


「・・・っ、廊下に立ってなさいっっっ!!!」


・・・今どき年配の先生でも言わないようなことを言われて。

あたしと越前くんは廊下に立つことになった。





「・・・あーあ・・・あたし、これでも優等生だったのにな〜。
・・・責任、とってよね」


廊下に立たされたまま、隣にいる彼に言う。


「・・・それって、良い意味に受けとっていいんだよね?」

「・・・っ、好きにすればっっ!」


そう言い放って、あたしはぷいっと彼のいる方と反対の方を向く。

頬の熱は、冷めるどころかどんどん上がっていきそうだった。



・・・これからもきっと、こんな感じなんだろうな。

いつも越前くんペースで。

彼は何事もすました顔でやりとげて。

あたしは何かと一人で慌てまくって。

彼の行動に色々振りまわされる。



――でも、いいかな・・・越前くんとなら・・・

・・・あたしは自分の手を、彼の手に静かに絡ませた。








おまけ。


「ふーん・・・それ、誘ってるワケ?
・・・じゃ、ご希望にお答えして、さっきの続きしようか」

「んなっ・・・ちょ、ちょっとっっ!」


・・・・・前言・・・撤回。





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