寒かったり、少し暖かかったり。
そんな時期にあたしは生まれた。
A warm birthday
――ピンポーン
ある日の朝早く。
訪問者を告げるその音を聞いて、あたしは玄関ベルの受話器をとった。
「っと・・・はい」
『・・・おはよ』
「・・・りょ、リョーマ?」
聞き間違うハズのない、大好きな彼の声。
あたしは戸惑いながらも彼に玄関で待つように言った。
「・・・あ、ゴメンゴメン。
んでも・・・どうしたの、こんな朝早く?」
「・・・今日、先輩の誕生日でしょ?」
さらっと答えるリョーマ。
そっか・・・今日あたしの誕生日だもんね・・・って!
「今日部活だったんじゃないの?!」
慌てて彼に問う。
そうよ、確か今日って部活あるはずじゃ・・・!
「寂しがってるお姫サマのとこに行く、って部長に電話した」
「あ、あたし別に寂しがってなんか・・・っ」
部長――手塚くんが、それを聞いて一体どんな顔をしていたのか想像しつつ
あたしは前半部分のセリフに反応した。
だって、あたし「寂しい」なんて一言も言ってないし・・・。
「・・・1人なんでしょ、今日」
「・・・っ!」
あたしの言葉に対して、少し呆れの入ったような顔でリョーマはそう言った。
そして、あたしは目を見開く。
「なんで・・・そのこと・・・」
「英二先輩に聞いた。今日、家みんな出かけてるんでしょ?」
英二・・・喋ったわね・・・。
アイツにだけは秘密が出来ても絶対言うまい・・・。
そう思いつつ、あたしは無意識の内に足元を見る。
そこに、あたし以外の靴はなかった。
「確かに、うちは今日皆出かけてるけど・・・リョーマは部活出なきゃ」
そう。
確かにあたしは今日、誕生日で。
家族はそれぞれ用事があって、友達と会う約束もせず。
彼氏のリョーマは部活あり。
・・・でも、そんな誕生日もたまにはいいかなって・・そう思って、留守番をすることにしたのだ。
だから・・・言ってみれば、1人になったのは自主的。
リョーマが来てくれたのはスゴク嬉しいけど・・・部活をサボらせるわけにはいかない。
「なんで?」
「いや、何でって・・・部活サボっちゃダメでしょ?大会も近いんだし・・・」
そう聞かれるとは思わなかったから、少ししどろもどろになって答える。
すると、何故かリョーマはため息をついた。
そして、澄んだ2つの眼があたしを見ると。
「そうじゃなくて。
なんでオレが先輩を1人にして行けると思うワケ?」
「え・・・?」
リョーマの言っている意味が、瞬時に理解できなかった。
彼は、言葉を続ける。
「他のヤツはどうだか知らないけど、オレは彼女を1人にしたくないんスよ。
特に、今日は誕生日だしね」
「そ、その気持ちは嬉しいけど・・・でも、やっぱり部活に・・・」
あたしの言葉は、リョーマに遮られる。
「オレがここに来たのはオレが来たかったから。
先輩のためじゃなく、ね」
ま、それも少しあるけどね、と付け加えるリョーマ。
その顔に浮かぶのは・・・いつもよりも少し優しい笑み。
「・・・わかったわよ・・降参」
勝ち負けの問題ではないのだが、あたしは苦笑を浮かべながらそう言った。
・・・あたしにとって。本当は、負けである結末はないだろう。
「じゃあ、とりあえず上がっ・・・」
「・・・その前に」
あたしが言いかけた言葉の上に、リョーマの声が重なると。
ぐいっ―――。
「・・・っ、リョーマっっ!!」
一瞬で沸騰したかのように顔を赤くして、言う。
唇に残る感覚は、間違いなく彼のそれ。
「・・・勝利者へのプレゼント。
で、もう一つ・・・」
再び引き寄せようとするリョーマの手を、あたしは押しとどめた。
不服そうな顔をする彼に、心の中で少し微笑んで。
「誕生日プレゼントは、さっきのキス。
勝利者へのプレゼントは・・・」
"あたしから・・・ね"
その言葉は、重ねた唇に伝わせて。
2つの影は再び1つになったのだった。
・・・これからの誕生日は、暖かくなるわね。
たとえ気温が寒くても。
雨の日でも、風の日でも。
彼さえいれば――きっと。
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