あたしのベストプレイス




 竜がよく言ってる『ベストプレイス』
 もしそれがあたしにもあるとしたら
 それはきっとアイツの後ろ
 いつもユルイ顔してる、あたしの未来の旦那様


「おーい、アンナ〜、ロードワーク終わったぞ〜」
「そう。じゃあ次は買い物に行ってきてちょうだい」
「・・・・・」
あたしの言葉に葉は「はぁ」とため息をつく。
これは密かなあたしの楽しみ。
この時だけは、あなたの顔を真っ直ぐに見つめられるもの。


 前には居たくないの
 あなたの姿が見れないから
 隣じゃなくていいの
 あなたの重荷になりたくないから


少し愚痴をこぼしながらも、買い物をしに再び家を出る葉。
その後ろ姿を、あたしは家の門の前で眺めてる。


 後ろでいいの
 あたしの姿はあなたの視界に入らないけど
 あたしのことは気にしないで
 後ろから伸びるあたしの影
 気にせず踏みつけていって


帰ってきた葉から買い物袋を受け取り、食事の用意をたまおに頼む。
葉はおぼつかない足取りで庭に面する部屋まで移動し、縁側に倒れこむ。
外は夕焼け空。
吹きこむ風は、この季節にしては暖かめだが、それでもまだ冷たい。
その風は、縁側で寝転ぶ葉の髪を揺らし、火照った体を冷やしている。


 だけど ときには
 隣に並びたい時もある
 そんなワガママなあたしを
 あなたはどう思うのかしら


あたしは寝転ぶ葉の側へ行き、縁側に腰掛ける。
あたしの気配に気づいたのか、葉はムクリと起き上がり、あたしの隣に腰掛けた。
「・・・夕焼けって良いよな〜」
「そう?」
「な〜んか、あったけー感じがするじゃん」
本当はこんなに寒いのにな、といつもの笑みを浮かべながら付け加える葉。
「・・・そうね」
言ってあたしはちらりと葉を盗み見る。
夕日に照らされた葉の顔は、キレイな茜色に染まっていた。


 隣に並んではじめて見える、あなたの横顔
 見てると心があたたかくなる
 あなただけが持ってる特別な魔法


「・・・あたたかくなるのは、夕日だけが原因じゃないかもね」
ぼそりと小さく呟いて、あたしは葉の肩に頭を預ける。
突然のあたしの行動に、ぴくんと反応する葉の肩。
彼が今どんな表情をしてるかさえ、わかってしまう。
あたしの口元に、小さな笑みが浮かんだ。


 一見頼りなさそうで
 でも側に居ると安心できる
 そんなあたしの『ベストプレイス』





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