"今日は午後からところどころ雨が降るでしょう"

"お出かけの際には、折り畳みの傘を忘れずに"




雨の日のコンビニ




「・・・遅い」

ある日、学校の正門の前で。
あたしは機嫌が悪いのを隠すことなくそう言った。
校舎からここまで走ってきた葉は、後ろ頭をポリポリとかきながら、
「すまん、ちょっと委員会が長引いたみたいなんよ」
「『みたい』って・・・また委員会中に寝てたの?」
葉の言葉に、あたしは怒ることも忘れて呆れてしまった。

今日は委員会がある日。
あたしは委員会なんて興味なかったから入らなかったけど、葉はクラスのみんなに頼み込まれて、半強制的に入ったのだ。
「別にいいんよ、委員会ぐらい」
呆れるあたしを目の前に、葉は笑いながらそう言った。
「さ、んなことより早く帰ろう」
彼の言葉にあたしはそうね、と答えた。



「・・・あ。」
葉が学校であったことなどを話すのを聞きながら帰っていると、突然、葉がそう言った。
「・・・ん、どうしたの・・・・って、冷たっ」
言うと同時に目に冷たい何かが当たる。


――ポッ・・ポツ、ポツ・・・サァァ―――


冷たい物の正体、それは雨だった。
「・・・うわ、降ってきたみてーだな」
「・・・何のん気なこといってるのよ・・・あそこで雨宿りしましょ」
言ってあたしは葉の返事も聞かずに、近くにあったコンビニに入っていった。



「いらっしゃいませー」
店員の声が狭いコンビニ内に響き渡る。
「・・・はぁ、濡れたわね・・・」
そう一人呟きながら、濡れた髪を鞄の中に入っていたハンドタオルで拭く。
そんなに長い間雨に降られていたわけではないのに、髪はかなりしめっていた。
「・・・はぁ。
 ・・・葉、今日傘持ってきてる?」
あたしはさっきから黙ったままだった葉に問う。
今日、珍しく朝の天気予報を見なかったあたしは傘を持ってきていなかったから。
「・・・・・」
そんなあたしの問いにも、葉は答えようとしない。
それどころか、あたしから目をそらそうとしている。
「・・・よ・・・う?!」
もう一度声をかけようとしたそのとき、葉はあたしの腕を引っ張った。
突然のことに、あたしは簡単にバランスを崩し、結果的に葉に持たれかかることになった。

・・・とくんっ。
心臓の音が、少し大きくなる。

「・・・っ、もう、いきなり何なのよ」
持たれていた体をどかして、葉に文句めいたことを言う。
葉は、あたしの言葉には反応せず、目をそらしたままぼそりと呟いた。
「・・・早く外、出よう」
「・・・え・・だって雨降ってるのよ?
 ・・・あ、そうよ、あんた傘持っ・・・?」
あたしの言葉は最後まで声にならなかった。
何故なら、さっきまで目をそらしていた葉が、急にあたしの目を真っ直ぐに見てきたから。

・・・どき・・ん。
今度は体中に響き渡る、心臓の音。

そんなあたしの心のうちを知っているのかいないのか、葉はあたしの目に向けていた視線を少し下にずらし、
「・・・その格好、他の奴らに見せたくないんよ」
と呟いた。
その顔は、何故か赤い。
「・・・あたしの格好・・・・・・っっ?!」
葉の言葉の意味がわからなかったあたしは、葉の目線を追って・・・凍りついた。
葉の視線の先――それは、あたしの服だった。
それも、さっきの雨でかなり濡れた、ね。
その先は・・・言わなくてもわかるでしょう?
水を大量に含んだブラウスはあたしの体にぴったりとはりつき、普段は少ししか透けていない下着も、はっきりと見えるようになっていたのだ。
かあああっっ。
らしくもなく、顔を赤くしてしまったあたしは、急いで鞄の中から財布を取りだし、その中の硬貨数枚をコンビニのレジのところに置いて、そのまま葉の顔も見ずに、入り口付近にあった売り物のビニール傘を一本とって、コンビニを出た。
そして、その傘をさし、鞄を抱きかかえるようにして、まだ雨の降る道を家の方へと走りだした。
後ろから葉の声が聞こえたが、もちろん止まれるわけがなかった。



(・・・でも)

走りながら、考える。

(「他の奴らに見せたくない」ってことは・・・)

考えながら、顔が、もっと赤くなるのが自分でもわかった。

(少しは・・・期待してもいいのかしら)


・・・早くなった鼓動は、この雨と同じく、しばらく止みそうになかった。





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