自動車学校に行こう!


◇第一話◇

「遅いなー、あいつ。」
外では、教習開始5分前を示す、音楽が流れる中、一人教習車の中で、愚痴りながらある人を待っているのは、現在F・M高校3年のリナ=インバースだった。
高校生活も後1ヶ月リナは、スレイヤーズ自動車学校に通っていた。そして、今やっとこさ取った仮免で、彼女の担当の指導員と路上へと繰り出していた。
もちろん今は、白と黒のチェックの襞がちょっと大きめのプリーツスカート、黒のブレザーに白い角衿のブラウス、紺とワインカラーのしま模様のネクタイ、そしてブレザーの胸ポケットにはF・M高校の校章という制服姿。理由は、『高校生は、高校に通っている間の教習は、制服で受けること』という高校と自動車学校と共通の規則があるからである。もし、これを破ったら卒業まで教習はストップになって、最悪の場合停学、もしくは卒業延期と言うこともある。
しかし、リナにとってもっと怖いのは、私服で行って姉ちゃんにばれた時である。リナの姉、ルナは、けっこう学校とかの規則には、(ある程度まで)厳しい。よって、もしそのようなものを破ってみつかろうものなら……。
とその時、校舎の方から辺りをきょろきょろしながら、走ってくる一人(いや実際には、10人程度いるのだが…)の人物。
「何よ、あいつ…明後日の方ばっか探して。」
そうこうしているうちに、リナ(正確には、リナが乗っている車)を見つけて、てけてけと走ってくる男性。
運転席側にまわって、手で『ブレーキを踏んで下さい』という合図。リナは、足を伸ばしてブレーキをきゅっと踏む。後ろの方で、コンというボンネットを軽く叩く音がしてリナは、足を降ろす。
「こんにちは。」
人なつっこい笑顔と共に、車の戸を開けて助手席へ入ってくる。
そう、彼がリナの担当指導員ゼロス=メタリオム。濃い紺の上着に、黒と白の細かいチェックのズボン、白のカッターシャツに、紺と白のシマシマネクタイには、自動車学校オリジナルのタイピンという、スーツ姿がとっても似合っている。付け加えて、中肉中背だけど、透けるような白い肌、肩の所で切りそろえられた黒よりも紫に近い髪、顔立ちもなかなかいける。もし、繁華街やなんかに言って、ナンパでもすれば10人に9人がついていきそうなくらい一見人が良さそうな笑顔。(『一見』とは酷いですねbyゼロス)
「それじゃ、行きましょうか。」
ゼロスの言葉を受けて、シートを前に合わせて、シートベルトをはめて、一旦クラッチだけ踏んで、ローになっているギアをニュートラルに入れて、エンジンを掛ける。
「ミラーは、良いですか?」
あ、忘れてた。
まず、ルームミラーをシートに座った状態で後ろが見えるように合わせる。次に、サイドミラーを少し車の後部が見えるくらいに合わせる。
ギアをローに入れて、サイドブレーキを降ろす。
ゼロスがそれを見届けて、窓の外を見回す。
「さてと、どうやって出ましょうか…右合図を出して、正門から出ましょう。」
 言われたとおり、リナはハンドルの右側にあるレバーを軽く下へ弾いて右ウインカーを出す。
ちなみに、校舎と教習所内の道路を一本隔てたところにクランクがあるのだが、そのクランクの入り口に向かって左側にちょっとした横道がある。そこに、リナが乗っている車がある。
「で、門を出たら右に行きます。」
車の合間を狙って、発進させて右に方向転換してそのまま真っ直ぐ正門の方へと向かう。
 もう一度、右のウインカーを出す。
「やっぱり、リナさんの坂道発進は、見事ですね。」
門の前周辺がちょっとした短い坂になっているのだが、そこでリナはちょっと多めにエンジンを吹かしてシュイーと発進させた。
助手席で教習原簿のチェックをしていたゼロス先生が、運転席でハンドルを握り、今まさに路上へ出ようとしているリナに声を掛ける。
「当たり前でしょ。」
「大抵の方は、止まった拍子に後ろへゴロゴロと、下がってしまわれます。それを、こんなにスムーズに発進させられるのですから。」
リナは、ふぅんと相槌を打って路側帯を示す、白線の前で一旦停止をして、左右を確認して右にハンドルを切って走り出す。
「ゼロス、今日は何処へ行くの?」
もう馴れた手つきで、左足のクラッチを踏んでギアをセカンドにチェンジしていく。
ちなみに、ゼロスが『先生』をつけなくていいと言ったので、リナは友達と話すような感覚で話していた。
本人曰く、「リナさんから『先生』と呼ばれると、なんかギクシャクしたような感じがするからです。」だそうだ。
「そうですね…今日は、……1コース行きましょう。」
この他にも2コースと3コースというものがあるのだが、この3つコースは、卒業検定(以下、卒検)のコースで、実技テストの時に走る。
「え、あの並木通りの?」
 ある程度までスピードを上げながら、ゼロスに問う。その時、リナの手はギアをセカンドからサードに入れている。
「そうです。」
「やったぁー」
途中、人や車の通りが少ない静かな並木通りがあって、暖かい日のお昼にそこを通るのがリナは、大好きだった。
車を走らせていくと商店街を抜け、ダ○エーの前を通って、線路へさしかかる。
線路の手前で、止まりそうになる車を、半クラッチを上手い具合に効かせてのろのろと前へ進めていく。白い停止線の前で止まって、ギアを1速に合わせ、窓を少しだけ開けて左右をよく確認してから、再び発進する。
線路を抜けたところで、加速しながらギアをセカンドへ、セカンドからサードへ変えていく。
「リナさん、ここは40q/hですから、4速まであげていいですよ。」
「ほーい。」
軽く答えて、さらに加速しながらギアを4速に合わせる。
 暫し、沈黙が落ちる。
「あ、そこの交差点を右に曲がって下さい。」
交差点前きっちり50mで、リナに指示を出すゼロス。
リナは、ゼロスの指示を受けて右ウインカーを出して、ルームミラー→サイドミラーと視線を走らせ、ちらっと右の窓の外を確認して、中央の線に車を寄せる。対向車の空きを狙って、ハンドルを切る。
「うーん、今4速になってますから、曲がるときスピード落としたら3速もしくは、2速に入れると曲がりやすくなるんですけどね……。」
「まぁ、良いでしょう」と呟いて、左上にある小さなミラーごしに、リナを見る。
その後は、他愛もない世間話をしながら、ぐるっとコースをまわっていた。今日は、ポカポカ陽気で、比較的暖かいので、話もけっこう弾んだ。

40分後、リナとゼロスは自動車学校に帰ってきた。
「えーと、あの108番の車の後ろに止めて下さい。」
「ほーい。」
 言われた場所に車を止めるリナ。
ギアをローに合わせて、サイドブレーキを引いて、クラッチとブレーキをふんどいて、キーを回してエンジンを止める。キーは、抜いて横のボックス(元灰皿)に入れる。
「次は……」
ゼロスが手持ちのファイルを開く。彼が受け持ち生徒の教習スケジュールがびっっっしりと書かれたページを開く。
その間にリナは、シートベルトを外して、シートの下にあるレバーを引いて、座席を後ろへ下がらせる。
「日曜日の9時、10時、12時、5時、6時ですね。」
「うっわー!予定びっっっっっっっっっっっしりね。」
ゼロスのファイルを横からひょいと覗き込んで、リナが正直な感想を述べる。
「そうなんです。おかげで休み無しです。」
よよよと泣き真似をするゼロス。
この時期(2月)は、大抵の高校が自宅研修と言うことになって、また、大学も卒業式を終え、就職先の入社式まで時間があるので、この期間を利用して車の免許を取ろうとする人が非常に多い。
リナは、昨年の10月初めに進学先が決まり、翌月の11月、2学期の期末が終わってから、早期入校生の一人として、通い始めていた。
「ダメなら、月曜日もありますよ。」
さっきまでの嘆きは何処へやらけろっとした表情で告げるゼロス。
(立ち直りの早い奴。)
内心呟くリナ。
(うーん、日曜日か……別に「これっ!」って用事はないし、だからといって空きすぎるのはヤだし。
 本当なら2時間連続!!…ってやりたいとこだけど、あのスケジュールじゃ無理ね。)
「んなら、日曜の6時がいいな。」
「はい、わかりました。それじゃ、日曜日の6時に予約入れておきますね。」
ファイルにペンでリナの名前を書き入れる。
「リナさん、この後お暇ですか?」
「『暇か?』って、あんた次の時間も教習でしょ?」
あまりの質問にゼロスの問いにリナが問い返す。
「いえ、僕が言いたいのは、8時以降はお暇ですか?と言うことなんです。
できれば、お夕飯を御一緒しようかと…」
「いや。」
ゼロスの誘いを即答で、あっっっさりと断るリナ。
(だって、こんな何考えてるか分かんない奴と食事なんかしたくないわよ!)
確かに、リナの言うとおり、「お前は、そんな表情しか作れないのか!?」と疑いたくなるほど、ゼロスは常に笑みを絶やさない。
「そうですか……折角、僕のおごりで、マリ○ラのバイキングディナークルーズの予約も入れておきましたのに。」
『おごり』という言葉を強調しながら、残念そうに呟くゼロス。
ぴくっ!
ゼロスの『おごり』という言葉に反応するリナ。
「まぁ、そういうことだったら、姉ちゃんにok取ってからならいいわよ。
でも、あたし制服だから一旦帰るから迎えに来てね。」
リナの言葉に、パァッとゼロスの顔が明るくなる。
「ええ、けっこうですよ。8時半頃リナさんのお家にお迎えに行きますね。」
「ねぇ、それで出航には間に合うの?」
「ええ、出航は9時ですから。
それでは、お疲れさまでした。」
「お疲れさま。」
キーンコーンカーンコン……
リナとゼロスのその言葉を待っていたかのようにチャイムが鳴る。
車の外に出て、後ろのトランクを開けて、後ろと前の「仮免 練習中」という札を、その教習車の番号札とに入れ替えて、トランクを勢いよく、
バタン!
と、閉める。
「じゃね、ゼロス。忘れないでね。」
玄関前、自動車学校のスクールバスが止まっているところまで、やってきて、リナはゼロスに手を振りながらゼロスと別れる。
「もちろんです。」と行って、手をリナに振り返す。
リナが、バスに乗り込んだのを見届けて、踵を返して、校舎の方へ歩いていく。
その時、ゼロスの口の端が、笑みをかたどった。
リナは、そんなことも知らずに、校舎の中へと消えていくゼロスの背中を見送った。

つづく


このような、駄文送ってしまってすみませんでした。全然ゼロリナじゃないやん!!しかも、
あつかましくも続いてるし・・・
次回こそは、甘いものに・・・なるといいけど(弱気)



鈴木梨奈サマより。
素敵な作品ありがとうございました。





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