不思議な一夜


――コンコン。

・・・ガル!?あ・・・・・すみません。人違いです。

あの・・・よかったら入ってください。と言っても私の小屋じゃないですけど・・・。

道に迷ったのでしょう?実は私もなんです。

外は雨ですし、風邪を引くといけませんから。・・・どうぞ。





・・・・・すみません。少しお聞きしていいですか?

・・・男の人を見かけませんでしたか?

ガルという名前の・・・金髪の少し変わった形の剣を持った男の人を。

ずっと探しているのにいないんです・・・。

あ、申し遅れました。私はイリア。イリア=フェアリアスと言います。

ガル=インバースという男の人と一緒に旅をしていたのですが・・・。

・・・・そうですか・・・知りませんか。あ、いえ。別に気にしないで下さい。

――ザーザー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・雨が激しいですね。・・・・ガル・・・・大丈夫かしら・・・・。

・・・・・・・え?私とガルの関係ですか?

・・・・私とガルは・・・・結婚していました。



・・・・私の一族は私達の結婚には反対でしたから結婚する事は出来なかったんです。

でも私たちは結婚しました。ちゃんと指輪を交換して・・・誓いのキスをして・・・・。

ガルのご両親は喜んで賛成してくれていました。

『あたし達だって本当は一緒にいるなんて許されないけど、でも二人がそれで納得しているなら離れる必要性はどこにもないんじゃないかしら?』

彼のお母様・・・リナさんはそう言って笑って下さいました。

・・・・でも私の一族は許してくれませんでした。





・・・・・・・私は・・・・竜族なんです。赤の竜神・・・スィーフィード様にお仕えする黄金の竜族・・・。

一族は私を追放しました。

理由は「神の一族に人間に誑かされた女など入れておくわけにはいかない」からでした。

あのとても優しかったミルガズィアおじ様でさえ私の話を聞いて下さろうとはしませんでした。

追放されてそれで済むならと私は長の決定に従ったんです。

それなのに・・・・ひっそりと暮らしていた私とガルの元にある日一族が来ました。

そして私達を殺そうとしました。



私は長の命に従い、竜の姿に変化する事を自分で禁じました。ほかの竜族に会う事もしませんでした。

それなのに何故・・・問い詰めた私に彼らは言いました。

「お前は裏切り者。裏切り者とその仲間には死を・・・」



ガルのご両親はリナ=インバース、ガウリイ=ガブリエフとおっしゃられるのですが・・・。

お母様にはもう一人の旦那様がいらっしゃいました。その方の名前はゼロス=メタリオム・・・。

貴方は知っているでしょうか?赤眼の魔王の五人の腹心、獣王ゼラス=メタリオムを・・・。

ゼロスさんは獣王の部下でした。

・・・魔族と人間の結婚・・・決して許されない事ではありましたが、それでもお二人はお幸せそうだったんです。

やがてリナさんとガウリイさんの間に生まれたのがガルです。ガルには二人のご兄弟がいました。

リナさんとゼロスさんの子供のゼナスさん・・・リナさんとガウリイさんの子供のリウナさん・・・。

皆さんとても祝福してくださいましたが、問題はゼロスさんが魔族だったことでした。

一族はこう思ったようでした。

「イリアの男の父親にはあの魔族のゼロスがいる。イリアは魔族と通じているのだ」と。

全く愚かしい誤解でした。ゼロスさんはすでに魔族から追放されていたのですから。





私たちは逃げました。

逃げて・・・逃げて・・・とうとうこの森まで逃げてきたんです。

一族は諦めようとしませんでした。

そして・・・・・。





私たちは死にました。

ガルは私を庇って一族に殺され・・・・私は彼の後を追いました。

心臓を一突きにして・・・・あの世で再びガルと一緒になれることを願って・・・。



ここにいる私は残存思念・・・実体のない、要するに幽霊です。

死んでからもガルには会えなくて・・・まだここにいるのではと思ったのですが・・・・。

――コンコン。

・・・・・・誰か来たようです。ちょっと見てきますね。

はい・・・・・どなたですか・・・?



「・・・・・イリ・・・ア・・・・?」

・・・・・ガル・・・・?

「・・・イリアか・・・・・・?」

ガル・・・ガルね・・・・?

「俺は・・・・・・確か・・・・」

・・・殺されたのよ。あいつらに・・・・。

「ああ。・・・・お前も・・・死んだんだな・・・」

ええ。貴方のいない世界になんて何の未練もないもの・・・・。

「ああ。俺もだ。・・・行こう」

そうね。・・・・・ああ、旅の方、驚かせてしまって申し訳ありません。

彼がガルです。ガル=インバース。

「・・・・この方は?」

私の話を聞いてくれたの。・・・・誰も聞かなかった私の話を・・・・・・。

「・・・・そうか。ありがとう、旅の方」

何もお礼できなくてすみません。

ですが貴方の旅の幸運を願っております。

「申し訳ついでに頼みがあるんだが・・・ゼフィーリアに俺の兄弟が住んでいるんだ」

森の傍の小さな小屋です。

「・・・・俺達のことを伝えて欲しい。ガルとイリアは死んだと。約束を守れなくてすまないと」



「そろそろ行かなければ・・・」

ええ。・・・・あ・・・旅の方、これだけは覚えておいて下さい。

私は先ほど自分の一族を「あいつら」と言いました。

私の一族は話したとおり黄金の竜・・・神に仕える最も位の高い一族です。

ですが自分たち以外の異質なものは何一つ認めようとしない・・・愚かで自分本位で・・・身勝手な一族です。

私はガルと出会ってその事を痛いほど教えられました。

どんなに一般的に優れていると言われている者であろうとその心が本当に優れているとは限らないことを。

絶対悪と教えられていた魔族のゼロスさんは綺麗で優しくて・・・とても悪とは思えませんでした。

だから見かけや人の話に惑わされずに自分の目でその人の本当の姿を見て欲しいのです。

「何が普通かなんて一体誰が決められる?俺とイリアにとっては互いに傍にいる事が普通なんだよ」

「普通」なんてその人が自分で決めれば良いのですから。

貴方も貴方だけの「普通」を持っているはずです。

それを大事にしてください。

・・・・ありがとう。貴方に会えて・・・・話せて良かった・・・・・・。

「ありがとう。イリアの笑顔を見たのは久しぶりだ」

『貴方に幸運があることを・・・』



〜〜END〜〜


■作者サマより。

一人称で読者に話しかけていてしかも幽霊。

めぐみ初めての試みです。おかしくなければ良いのですが・・・。

少し暗いお話ですが、これで3兄弟のその後を書くことが出来たとホッとしております。

読んで頂いてありがとうございました。



天野めぐみサマより。
素敵な作品ありがとうございました。



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