魔性の瞳


「・・・・リナさん。落ち着いて聞いてくださいね?」「はい?」
「暴れるなよ?落ち着いて聞くんだ。」「・・・?分かった。」
そうして二人は事のあらましを喋り始めた。見る間にリナの顔色が変わっていく。
「・・・・・・あたしは・・・・あんた達の共有財産、って事・・・?」
「・・・有り体に言えばそうなります。」
「なんじゃそりゃあああああぁぁっっ!!」
二人の想像どおり、リナの許容範囲を越えた話だったようだ。しかし落ち着いて話を聞くはずではなかったか。
「ガウリイっ!ゼロスっ!あ・・・あんたたち!あたしのいない所で何でそんな話してんのよおおっっ!!」
・・・言葉まで想像どおりとは。全く世の中は上手く出来ている。
「お、落ち着けって!リナ!」「リナさん!どうか・・・!」
「これが落ち着かずにいられるかああっっ!!大体そんなの誰が許したのよおおっっ!」
「L様です。」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
「いや、だから・・・。Lにお前が騒いだら、自分が許可したってそう言えって言われて・・・。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
長い沈黙である。一分はあっただろうか。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・金色の魔王って、一体・・・・・・・・・・・・・・・?」
もうそれしか彼女は喋ることが出来なかった。
「まあ、いいじゃないですか♪」
「そうそう。俺たちはお前の気持ち、もう知ってるんだぜ♪」
そう言って二人は左右からリナの身体に抱きつく。
「―――っ!」
リナの体が見る間に桜色に染まる。
「ガウリイさん。どうしましょう。僕、リナさんが僕をどう思ってくださっているのか分からなくなってしまいました!」
「おお、奇遇だな。俺もだ!」
「と、いうことで。」
見事に二人の声が重なった。
「僕のこと、どう思っていらっしゃいます?」「・・・・・・・。」
「俺のことはどう思ってる?」「・・・・・・・・・・。」
明らかに二人はリナをからかっていた。呪文を唱えようとしたリナを察知してゼロスが先手を打つ。
「そうそう、リナさんの魔力はここでは効きませんからね。」
「なあ、教えてくれたっていいだろう?」
魔法が使えたとしても、愛していると自覚した者を吹っ飛ばすことはためらわれた。だから丸焦げにするつもりだったのだが,呪文が使えない以上どうすることも出来なかった。
リナはひたすら無言を通す。
「リ〜ナ♪」「リ〜ナさん♪」
「・・・・・なんでそんなことが聞きたいのよ。」
「そんなことだから聞きたいんです♪」「そうだぞ。俺達は聞きたいんだよ。」
「・・・言わなくても分かってるんだからいいでしょ。」
「駄目です♪」「ここは引き下がらないからな♪」
「別にどうでもいいじゃない。」
「よくありません。僕達は聞きたいんですから♪」「俺もリナの口から直接聞きたいしな♪」
「だからなんでそんなことが聞きたいのよ。」
永遠に続くかと思われた押し問答だが、ゼロスのある言葉で終わりを告げる。
「じゃあ、何故そんなことをリナさんはL様に望まれたんですか?」
「・・・・・・うっ・・・・!」痛いところを突かれた。
「俺達の気持ちが知りたかったからだよな?」
「・・・・・・・・・・・・そうよ。」
「じゃあ、僕達が貴女の気持ちが知りたいというのも分かりますよね♪」
「それとこれとは話が・・・・。」「違いません♪」「うんうん、違わない♪」
「う〜〜・・・・・。」「唸っても♪」「駄目です♪」
「リナ?」「リナさん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かった。」
「やったあ〜〜!!」
そんなことで何を喜んでいるんだろうか。手と手を取り合って喜ぶんじゃない。しかしゼロスとガウリイ,妙に息が合ってるなあ。
「なんて言うと思ったかあ!このくらげあんど生ゴミ!」
「そんなコメディアンのように・・・・・。」「俺達売れない漫才師じゃないぞ・・・。」
「・・・・・・全く。たかが一言が何でそんなに欲しいのか・・・。」
「そのたかが一言のために死んでもいいと思った貴女に言われる筋合いはないと思いますが。」
「う・・・・・。」
「俺達そんなに難しいこと言ってるか?」
「ぐ・・・・・。あんた達はどうなのよ。」
「そりゃあもう。なあぜロス。」「ええ。ガウリイさん。」
「何度だって言えますよ。愛してます。」
「もちろん俺もな。愛してる。」
一度大きな息を吐くとリナは立ち上がった。
「あんた達の愛ってのはそんなに何回も言葉に出来るほど軽いものなのね。」
「そんなあ〜〜。」
「さ,支度なさい。アメリアはもちろんゼルガディスやシルフィールにも迷惑かけたんだから。今からセイルーンに行くわよ。」
そう言うとリナは支度を始めた。
「リナ〜。」「本当ですって〜。」
「はいはい。・・・あたしも愛してるわよ。」
二人は顔を見合わせた。それは素直じゃない彼女の精一杯の告白だった。
「全く・・・・。」「素直じゃないんですから・・・。」
照れ隠しのためかリナが声を張り上げる。
「何してるの!あんたがいないと空間移動できないんだから!ゼロス!ガウリイも!早くしなさい!」
自然と笑みが零れる。
「おお〜!」「今行きます!」
リナのもとに行きながら二人は考える。リナに最初に惹かれたのはどこだったかと。
ゼロスは言うまでもなくその強い意志の宿った瞳に。
ガウリイもやはり,リナの幾度辛い目に遭っても悲しいことが起こっても決して怯むことなく前を見据えたその強さを秘めた瞳に。
二人を同時に同じ理由で惹きつけたリナの瞳は,間違いなく二人にとって魔性の瞳だった。




その後,とある村の外れに可愛らしい家が建てられ,一人の女と二人の男,そして数人の子供がそこには住んでいたと言う。

女の名前はリナ=インバース。紅い髪と紅い瞳を持ち,世間に広くデモン・スレイヤー、ロバーズ・キラーの通り名で知られている魔道師だった。性格の上ではこの上なく凶暴,しかしその奥にある優しさに気付く人間はごくわずかである。

男の名前は,ガウリイ=ガブリエフ。かつてリナと一緒に世界中を旅し,その剣で幾度ものピンチを切り抜けてきた剣士だった。頭に少々の問題が見られるようだが,その吸い込まれそうに蒼く深い瞳のように,広くて深く,温かな心の持ち主だと言う。

そしてゼロス=メタリオム。かつては魔族であったものであり,降魔戦争以来伝説に名を残すドラゴン・スレイヤーである。いつもにこにこしているが,リナに危害があると容赦なく非情になれる。最もリナに叱られるので,そんなことはしなかったが。

子供達は皆,母親譲りの強い瞳をしていて,父親譲りの金色の髪と紫色の髪の毛をしていた。顔立ちは全て母親似だったが。そして全員何かしらの才気に溢れていた。
ちょくちょく遊びに来る友人,アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンにリナはいつもこう言っていたという。
「こんな事言うのもなんだけど,やっぱり光の世界はいいわね。」
そして息を引き取る直前には「貴方達が傍にいて,幸せだった。二人とも愛しているわ。」と・・・・・。


その後,後を追うように亡くなった三人は子供達の手で小高い丘の上に葬られた。
その丘には三つの墓石が並んでいる。
真ん中にリナ=インバース。左右を守るようにしてガウリイ=ガブリエフ,ゼロス=メタリオムの名が標されている。
そしてその横には石碑が・・・・。
「いつまでも光に満ち溢れた世界でありますように。」


  作者サマより。
魔性の瞳やっと終結です。いや〜今回のようなオチを誰が予想できたでしょうか?
最初はシリアスでダークだったのですが・・・最後はほとんどコメディになってしまった。
一度決めた設定を最後まで持続できない・・・。これこそ究極の駄文!(威張るな)お目汚しで申し訳ありませんでした。
私的にはこの話結構気に入っているので,今度は続編として子供達の話を書きたいと思ったりしています。
それが出来上がるかはどうかは皆様のリクエスト次第・・・。お付き合い頂き有難うございました。



めぐみサマより。
素敵な長編作品、本当にありがとうございました!


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