希望の光


「お兄ちゃん!お待たせ!」

愛しい声に僕は振り向いた。

「買い物は済みましたか?リウナ」

リウナは微笑むと、荷物の半分を僕に差し出した。

「うん」

荷物を受け取って歩き出した僕たちの耳に小さな声が飛び込んできた。

「ほら、あの二人だよ。例の・・・・」

「ああ・・・・あの森の小屋の・・・・」

「とんだ厄介者だねえ・・・・」

僕達に聞かせるようにして囁かれる声にリウナは身を竦めて僕にしがみついて来た。

「お兄ちゃん・・・・」

「・・・・・・大丈夫ですよ」

そう言ってつないだ手を握ると、リウナは強く握り返してくる。

「僕が一緒にいるでしょう?」

「・・・・・・・・・・・・うん」

黙って歩く僕たちの背中に鋭い一言が刺さった。

「・・・・・やっぱり、ほらあの女の子供なんだよ」

「ああ・・・・男を二人も誑かした・・・・・・リナ、とか言ったか」

思わず辺りを見回すと、途端にリウナが泣きそうな顔をした。

「・・・・・いいから・・・・・・帰ろう?」

「リウナ・・・・・ですが・・・・」

「帰ろう・・・・・ね・・・・?お兄ちゃん・・・」

ふう、とため息をつくとリウナに笑いかけた。

「・・・分かりました。帰りましょう」

人々の蔑むような冷たい視線を浴びつつ、僕達は家に帰った。





「・・・リウナ?まだ寝ないんですか?」

その夜。

ランプの灯りに気づいて僕が身を起こすとリウナが寂しそうに笑って言った。

「あ、起こしちゃった?ごめんね」

「いえ。ちょっと外に行って来ますね。・・・・寝付けないものですから」

そう言って僕がベッドから降りると交代するようにリウナがベッドに入る。

「うん。あたし、もう寝るね。・・・・・おやすみなさい」

「おやすみなさい、リウナ」

ランプの火を消すと、僕は外に出た。





僕はゼナス。ゼナス=インバース。

あの ロバーズキラー、デモンスレイヤーなど数々の二つ名を持つリナ=インバースの息子。

そして獣王ゼラス=メタリオムの部下、獣神官ゼロスの息子。

彼女の名前はリウナ=インバース。

僕と同じリナ=インバースを母に持ち、ガウリイ=ガブリエフという人間の男を父に持つ妹。

今は・・・・僕の愛しい妻。

兄弟なのにおかしいと思う人が多いのかもしれない。

昼の町の人々のように気持ち悪い、狂っているのではと蔑む人がいるだろう。

それでも僕は・・・・僕達は愛し合っている。

初めてリウナを好きだと気づいたのはいつだろうか。

幼い頃、森に迷ったリウナを助けた時に僕に向けられた笑顔があまりにも綺麗で・・・・その笑顔をずっと守りたいと思ったのは覚えている。

確か僕が12歳でリウナが6歳の時だったか。

想いを打ち明けたのはもう一人の兄弟ガル=インバースが家を出た次の日。

『僕がずっと傍にいるから・・・・だから泣かないで下さい』

そう言ってキスをした。

・・・・リウナは拒まなかった。

悲しんでいるリウナに付け入ったわけではないと言えば嘘になるだろう。

でも僕はどんな手を使ってもリウナが欲しかった。

結婚式は出来なかったけど、母様の親友だったセイルーン国王ゼルガディス陛下、アメリア女王陛下。巫女頭のシルフィール様に祝福されて僕達は幸せだった。

たとえ町中の人が化け物を見る目で僕達を見たとしても。



「・・・・化け物か。仕方ないな」

湖のほとりまで来た時、僕は思わず失笑してしまった。

リウナは赤眼の魔王シャブラニグドゥをその身に宿している。

人並みはずれたキャパシティと魔力の大きさは母様譲りだったが、母様の中にも魔王はいたそうだからその影響なのだろう。

魔力だけを見るならリウナは確かに化け物だろう。

でも、人間同士の間に生まれたリウナは間違いなく『人間』だ。

・・・・・魔族の血が流れている僕とは違って。

「・・・・当然か。・・・少なくとも僕は・・・化け物だ」

くすくすと笑う僕の姿は、いつもの白い神官の姿ではなかった。



ゼロス父様の魔族としての血を受け継いでいる僕には二つの特殊な能力があった。

一つ。空間を渡る能力。

二つ。自由に何にでも変身できる能力。

・・・どちらも普通の『人間』にはない『魔族』の証とも言える力。

僕は魔族が嫌いだ。リウナの秘密が明らかになった・・・父様達の命日のあの日から。

魔族は魔王の復活としてリウナを、僕の愛しい人を消し去る存在だから。

だからその二つの能力を忌み嫌い、出来る限り使わないように努めた。

「・・・・無駄なんだよ・・・・僕がこんな姿でいる限り・・・」

僕の背中には翼が生えていた。深みのある、夜の海のような翼。

それは僕が人間ではないことを示している。

小さい頃から何故僕にだけ翼があるのか不思議だった。

だってリウナにもガルにも翼など生えていなかったのだから。



ある日、僕の背中には翼が生えていた。

慌てて母様に見せに行くと母様は何故かすごく悲しそうな顔をした。

そしてゼロス父様は翼を隠す方法を教えてくれた。

『いい?誰にも見せてはダメよ』

『リウナとガルにも?』

『二人にも見せては絶対にダメです』

『どうして?』

そう聞いた僕に父様と母様は困ったように笑った。

『・・・約束して。絶対に誰にも見せないで』

『・・・・・はい』

泣きそうな母様が、すごく気になった。

泣いて欲しくなくて返事した。

僕に翼が生えている理由。

母様の遺言を聞いて、僕が魔族だとはっきり分かって、・・・ああ、やっぱりなって思った。



「・・・・お兄ちゃん?」

声に慌てて振り向くとリウナが立ってた。

「リウナ!?・・・寝たんじゃ・・・・」

リウナの目は僕の翼に向けられていた。

「・・・・お兄ちゃん・・・・翼・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

無言で僕は翼を隠した。

「・・・・・・・それ・・・・」

「これですか?僕が「禁忌の子供」だと言う証、ですね」

笑って言うとリウナは少し悲しそうな顔をした。

「・・・・・お兄ちゃん、魔族だもんね」

「・・・・そうですね。父様が魔族でしたから」

「あたし、お兄ちゃんに翼が生えてたなんて知らなかったよ」

僕の声は震えてはいないだろうか。

「・・・ガルも知らないはずです」

「・・・どうして隠してたの?」

僕は今笑っていることが出来ているんだろうか。

「・・・・町の子供達は親切でしてね」

「・・・・・?」

・・・・これはリウナが生まれた頃の話。

「いつも僕を見ては言うんですよ。「お前の母さんは魔女だ」「早く逃げた方が良い」とね」

「それ・・・・」



「こうも言いました。「あいつは悪魔の子。近づいたら殺される」・・・バカみたいですよね」

「・・・・ゼロスお父さんの子供だから?」

僕は努めて明るく話した。

「そうじゃないですか?ずっと汚いって言われましたよ。そう言った子達はその日、とても不幸だったでしょうけど」

「ふ〜ん・・・・そんなに綺麗なのにね」



瞬間。

見開いた目から知らず知らず涙が零れていた。

「・・・・ありがとうございます、リウナ」

「?泣いちゃダメだよ?」

無邪気にそう言うリウナに笑いかけると、僕達は家に戻った。





リウナ・・・貴女は覚えていないんですね。

ずっと昔、小さい時リウナは一度僕の翼を見たことがあるんですよ。

その時に今と同じ・・・「きたなくないよ。おにいちゃんきれいだもん」って言ってくれたこと・・・。

「リウナがずっといっしょにいるから、ないちゃダメだよ」

僕は忘れたことなんてなかったんですよ。忘れられるはずがない・・・・。

あの時の言葉があるから僕は生きているんですから・・・・。



〜〜END〜〜


■作者サマより。

桜知奈様がお誕生日だと言うことでしたので、リクを(無理矢理)お受けして書いてみました。
お誕生日おめでとうございます(遅いって)
内容、全然誕生日に関係ないですけどお許し下さい(涙)
読んで頂いてありがとうございます。



天野めぐみサマに誕生日祝いにいただいちゃいましたv
「ゼナス×リウナ」ですよ!!(*≧∀≦*)
めぐちゃん、素敵なお祝いありがとうございましたっっ。



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