禁忌
独りは怖かった。
だから隣にいる人に縋った。
私を見て軽く微笑んだその人はキスをしてくれた。
世界で何よりも愛しいと感じた人。
お母さんが言った何よりも大事だと思える人。
やっと見つけた。
その人は・・・実のお兄ちゃんだった。
「ゼナスお兄ちゃん、今日も遅くなる?」
「・・・・ええ。すみませんが先に食べていて下さい、ね?リウナ」
「は〜い。いってらっしゃい!」
笑って送り出す。いつもの事。
私の大事な人が今日も無事であることを祈って。
私の名はリウナ。リウナ=インバース。
リナ=インバースとガウリイ=ガブリエフの娘。
そして私が愛した男の名は・・・ゼナス。
・・・・・・・・リナ=インバースとゼロス=メタリオムの息子。
お母さんにはかけがえの無い二人の夫がいた。私とお兄ちゃんのお父さんの名前が違っていても不思議じゃない。
ただ、私にもお母さんにも幾重の禁忌があった。
お母さんの禁忌 一。二人の男を同時に夫としてしまったこと。
お母さんの禁忌 二。高位魔族であるゼロス=メタリオムと契りを結んだ事。
お母さんの禁忌 三。・・・・・生まれてきた私を殺さなかった事。世界に仇為すかもしれなかった私を。
お母さんが犯してしまった禁忌はこの三つ。
一つ目は「大したことじゃない」と笑い飛ばし、二つ目は「好きな人が魔族だっただけの事」と平気な顔をし。
三つ目は「何故娘を殺す必要があるのか」と首を傾げた。
私が犯した禁忌も三つ。
私の禁忌 一。実の兄と愛し合ってしまった事。
私の禁忌 二。ゼナスの命が助かるならと喜んでこの身を魔王に明け渡しかけた事。
私の禁忌 三。魔族を生んでしまった事。
一つ目はどうしようもなかった。小さい時森に迷い込んだ私を助け出してくれた、あの優しい瞳を見た時から育っていった恋心は止められなかった。
二つ目は望んだ事。絶対に護ると決めた人を人質に取られ、世界の平穏よりもゼナスの命を望んだ。・・・結局、全ての母にそれは阻止されたけども。
三つ目は・・・運命か偶然か。生まれた子は私達の呪われた絆を示すかのように黒い翼が生えていた。
「ただいま、リウナ。まだ食べてなかったんですか?」
「お帰りなさい。一緒に食べようと思って」
傍目から見ると仲の良い夫婦。事情を知っている人から見ると異常な兄弟。
・・・私達は何も悪い事はしてない。私の禁忌は世界から見た禁忌。でも私は人間に劣る行為はしてないと思ってる。
「・・・今日ね、あの子がまたゼラスに誘われてた」
「魔族にですか。あの人も懲りないですねえ」
「追い返したけどね」
私達が交わす日常会話は子供のこと。幾度も魔族へと誘う奴等の話。
「もちろんです。何度でも追い返してやりなさい。それより」
後ろから手が回され、どきどきしながら問い返す。
「何?お兄ちゃん」
「・・・いつまで僕は「お兄ちゃん」ですか?「ゼナス」と呼び捨てで良いと言っているのに」
「・・・・・・ずっと」
私の言葉にゼナスが苦笑する。・・・これもいつもの事。
「あのね、リウナ。夫婦で「お兄ちゃん」は無いと思うんですが」
「・・・・・まだダメ」
私が言う言葉も、ゼナスが溜め息を付くのもいつもの事。
「・・・分かりました。でもリウナを愛してるから名前で呼んで欲しいんだと言う事だけは覚えていて下さいね」
・・・・・そんな事分かってるけど、心ではいつも呼んでいるけど言葉には出来なくて、だからこう言うしかない。
「・・・分かってる、お兄ちゃん」
私がしてしまうだろう四つ目の禁忌。
ゼナスが死んでしまったら、そうしたら私は世界を破滅させるのかもしれない。
〜〜END〜〜
■作者サマより。
リウナのその後なんですが、この2人の子供。よくよく考えると魔族が生まれても不思議は無いんですよね。
だってゼナスは魔族のゼロスとリナの子供。リウナはガウリイとリナの子供だけどその身に魔王が潜んでるんですから。
これを書き終わってからその事実に気付いたりしてます。
読んで頂いてありがとうございました。
めぐみサマより。
素敵な作品ありがとうございました。
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