心の中の命


「あ〜・・・ひどい目にあったな〜」
僕はぽつんと独り言を漏らすと、先っぽだけカチカチに凍ってしまった尻尾を一振りした。
「くっそ〜・・・あの神官め〜」
この前、僕はご飯を探しに森の奥に入ったんだ。
でも台風が来てたせいか、何も見つからなくて、どんどん僕は森の中に入って行った。
森の中には人間の小屋があって、あんまし近づかないようにしてたんだけど、そのとき僕はすっかりそのことを忘れていたんだ。

僕はオークだけど、僕たちの種族は木の実を食べてるんだ。
お肉もたまに食べるけど、どっちかって言うと草や木の実を主食にしてるんだよ。
でも中々食べ物はなくて、あきらめて帰ろうかなって思ったら子供の泣き声がしたんだ。
「おかあさん……どこぉ?お母さん…」って泣く女の子みたいな声と、
「泣かないで、リウナ。大丈夫だよ。すぐにお母さんに会えるって。だからもう少し頑張ろう、ねっ?」って励ましているような感じの男の子の声だった。
茂みの奥から聞こえるから、気になって覗いてみたら人間の子供が三人いた。
よく見たら、女の子がスターフラワーといくつかの木の実を持ってたんだ。
すごくお腹が空いていたから、分けてくれないかなって思ったのに男の子が二人とも僕を睨み付けるんだよ。
だからちょっと脅かして、子供たちが逃げた隙に木の実をもらおうかなって思ってわざと唸ってみた。
でも、男の子たちが僕に向かって来るんだ。
僕が女の子を食べると思ったみたい。
魔法の球に頭を殴られたりして、ちょっと怒ってたら、その子達のお母さんみたいな人間が出てきた。

「あれが失敗だったんだよね」
女の人が僕に向かってくるから慌てて振り払おうとしたら、女の人の足に爪が掠っちゃって、怪我させちゃった。
でも女の人は子供たちのところに行こうとしただけだったんだよね。
あまり怖がらせないように人間たちにゆっくり近づいていたら、人間たちの後ろからまた違う人間たちが出てきた。
何だか女の人の恋人みたいな男だった。
女の人を怒ってた。その間に僕は木の実を取って逃げようとしたんだけど、女の人の足から流れてる血を紫の髪の神官が見つけたんだ。
そしたら、金髪の剣士も僕を見て本当に満面の笑み、って言う感じで笑うんだ。
すっごく怖かったよ。

神官が杖を振ったら、氷の矢が出てきて僕を追いかけるんだ。
慌てて逃げたけど、氷に当たった尻尾がちょっとだけ凍って冷たかった。
氷の矢、曲がっても木に登っても追いかけて来るんだもん、逃げてるうちに走り疲れちゃったほど。
しばらく走ってたら氷の矢はいきなり消えたけど、おかげで僕は前よりお腹が空いちゃったんだ。
「・・・尻尾・・・冷たい・・・」
焚き火で尻尾の氷を溶かしながら僕は沢山の木の実を食べる夢を見た。

次の日も、僕は森の中で木の実を探していたんだ。
でも、やっぱし中々見つからなくて困ってたら、昨日みたいに茂みの奥がガサッて音を立てた。
思わずその場にへたり込んでいたら、声が聞こえた。
「……あ。きのうのおーくさんだ」
怒ってる声じゃなかったから、そっと後ろを見たら、昨日の女の子だった。
そして、やっぱり女の子の手には木の実が握られていた。
「……どうしたの?」
知らず知らず、女の子の手を見てたみたい。
女の子は手の中を見ると僕に差し出したんだ。
「はい。これ、ほしいの?」
咄嗟のことで僕が戸惑っていると、女の子は僕の隣に座ってにっこりと笑った。
「ぜんぶたべてい〜よ」
何て言ってるのかはよく分からなかったけど、食べても良いって言われてるのだけは分かって、僕は一気に木の実を全部食べた。
「ちょっとまっててね」
女の子は立ち上がって僕の肩を押さえると、どこかに走っていってしまった。
「多分待ってろって言ったんだよね」
しばらく待ってると、女の子が手提げ籠を持って走ってきた。
「はい!」
差し出してきた籠の中を見ると、いろんな木の実が一杯入ってた。
思わず顔を見ると、女の子は僕に籠を押し付けた。
「あげる」

木の実をかじっている僕の横で、女の子はいろいろな話をしてくれた。
リウナって言う名前の女の子は、森の小屋にお母さんと二人のお父さんと、二人のお兄ちゃんがいるらしかった。
リウナは、僕を「チップ」って呼んだ。
そして、いつも一杯木の実を僕にくれるんだ。
「ちっぷ〜〜!」
そう言って走ってくるリウナを僕は大好きだった。
時々、紫の髪の毛のお兄さんに睨まれたり、わざと尻尾を踏まれたり、岩を投げつけられたり、木に縛り付けられたりしたけど、それでも僕は、リウナが僕の傍で笑ってくれることが嬉しかった。


あれから大分経って、リウナはもういなくなってしまったけど、でも僕の家にはリウナにあの日貰った小さな手提げ籠が大切に取ってあるんだ。
その手提げ籠を見るたびに僕はリウナのことを思い出して、また幸せな気分になる。
「もう会えないけど、リウナの一番大切な人は僕じゃなかったけど、でも僕の一番大切な人はリウナだったんだよ」
僕が生きてる限り、リウナも僕の中で生き続ける。何だかそんな気がするんだ。

〜〜END〜〜



めぐみサマより。
PC様という方からのリクエストを受けてめぐちゃんがお書きになった作品だそうですv
めぐちゃん、いつも素敵作品をありがとうございます!



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