怖いもの


一緒に旅してて思うんだけど……。
あいつの怖いものって、何?

気になったのはごく最近。
久方ぶりにご対面したからのないカタツムリに、あたしは思わず火炎球を投げつけた。
真っ黒焦げになった宿屋の一室を眺めながら、ガウリイは妙に感心して言ったのだ。
『ドラまたにも怖いものがあるんだな。』
どういう意味だと詰め寄ったら、
『まあ、一応女の子だしな。』
と、一人でまた感心していた。
……「一応」ってどういう意味よ。
あとでやっぱりお仕置きね。
と、そうじゃなくて。
確かに、あたしは不本意ながら怖い、と言うか苦手なものがある。
それは前述したあれだったり、某良家の奥様だったり、故郷の姉ちゃんだったりする。
で、あたしの相棒だが。
ガウリイが何かにおびえる、というのを見たことがないのだ。
ピーマンが苦手で、いつもそこだけ器用によけて食べるのは知っている。
でも、何かを見ておびえる、というのを見たことがない。
魔族を前にしてもこわがんないし。
……まあ、怖がってたらいくつ命あっても足りないけど。

気に入らないのよねぇ。
あたしだけ弱みを握られてるのって。




リナが変だ。

珍しく盗賊いぢめに行かないと思ったら、一緒にワインを飲もう、なんて。
しかも一人でガンガン飲むし。
慌ててリナから奪い取ったが、半分以上なくなってる。
こいつと静かに酒を酌み交わす日は遠いな。
っと。
へ?
オレの怖いもの?
そんなもの訊いてどうするんだ?
……何を企んでる、リナ。
は?弱みを一方的に握られているのが嫌だ?
……な、なんか可愛いかも……。
いやいや、そうじゃなくて。
それが今夜の妙な行動の原因か。
しかも酔ってるな、こいつ。
本人に直接聞くなんて、いつもなら絶対にしないもんな。
しかし、オレの怖いもの?
む〜〜〜…………。
わから……いや!ちゃんと考える!ちゃんと考えるから竜波斬はやめてくれぇっ!!




「リナ。」
「へ?」
リナは呆気にとられた顔で、ガウリイを見た。
「だから、リナ。」
ガウリイはしきりにうなずいた。
「だってドラゴンもまたいで通るくらいだし……(無印1話参照)。」
「まじめに答えんかい!!」

すぱぱぁぁぁぁんっ!

リナのスリッパがガウリイの頭に炸裂した。
「こいつに訊く方が間違いだった」と、リナはそのまま自分の部屋に帰っていった。
ガウリイは痛そうに頭をさすると、残されたワインを片手に呟いた。
「リナの気持ちが一番怖い、なんて言えるわけないだろ?」
ワインを一口飲むと、窓から夜空を見上げる。
その横顔がほんのり紅く染まっていたのは、果たしてワインのせいだったのだろうか。



羅紗さんより。
素敵な作品ありがとうございました♪





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