りらくぜいしょん


 ころころころ・・・・・・ばふっ


「あれ? あ、ごめんラウ。痛かった?」
 振り返ったあたしに、ラウシャンはぶるぶるっと首をふる。


 あたしの言ったこと、わかったのかな?
 ・・・って、そんなわけないか。ラウ、犬だし。


 ラウシャン。ゴールデンレトリーバー。女の子。
 お兄ちゃんが、あたしの誕生日に買ってくれたお友達。
 まだ生まれてから三ヶ月の子犬だけど。もうあたしが抱っこできないぐらいには大きくなってる。



「いいなぁ、ラウ、おっきくて。あたし、背の順だと一番前なんだもん」

 ラウが、あたしの頬をぺろっとなめた。
 うにゃっ、くすぐったいっ!



「あれ? リナ? 何で庭にねっころがってるんだ?」



 どこからか、声。大好きなガウリイの。
 きょろきょろきょろ。辺りを見回して。

 わんっ、とラウが吠えた。上の方を向いて。

 あっ、ガウリイいたぁっ!



「あのねー、ラウと遊んでたのー!」

 二階の窓に向かって、あたしは叫ぶ。
 ガウリイは、そこから顔を出していた。
 綺麗な金髪が、風にゆれている。



 ガウリイ=ガブリエフ。外人。男の人。
 あたしが来る前から、このお家に住んでた。
 長いまっすぐな金髪と青い目で、多分・・・十八歳くらい。
 あたしの知ってる中で、二番目にかっこいい人。
 一緒にお出かけすると。女の人、みんなガウリイのこと見てるんだもん。


 だけどねー・・・・・・ガウリイ、クラゲなのっ!


 もう、ず〜〜〜っと日本に住んでるのに。
 ガウリイ、まだ日本語が書けないの。
 この前ね、ガウリイの書いた文字、見せてもらったんだけど。
 これが、すっごい、おもしろいっ!
 ミミズみたいな、ぐちゃぐちゃしてる、ヘンテコリンな模様みたいで。
 鏡文字みたいに、左右が逆になってて。

 かっこいいのに、ガウリイ、ほんとにクラゲなんだ。




「ラウと? 遊ぶのはべつにいいけど・・・・・・
 まだ寒いから、中で遊びな、リナ」
「やだぁぁっ!」

 あたし、即答する。
 だって、中に入ったらダメなの。
 外にいなくちゃダメなんだもん。


「寒くないもんっ。あたし、外で遊んでる」
「風がまだ少しあるだろ。ただでさえ、おまえ、風邪ひきやすいんだぞ?
 いい子だから、中で遊べ、な?」
「ラウといるから大丈夫! ラウ、温かいもんっ」


 ラウは温かい。ふわふわしてる毛皮があって。
 ぬいぐるみみたいで。でも、動いてるの。


「・・・ったく、風邪ひいてもオレは知らないぞ?」
 しかたないなぁ、って、ガウリイはつぶやいて。
「じゃ、寒くなったらすぐにでも中に入れ。いいな?」
「は〜い」


 あたしは返事をする。
 ガウリイは笑って。そして、家の中に入っていった。


「寒くないもーん。平気だもん。ねー、ラウ」

 ラウを、ぎゅうぅって抱きしめる。
 ラウは嫌がったりしないで、あたしの腕の中にすっぽりおさまってる。
 あんまり吠えないし。たまにいたずらもするけど。
 でも、「おすわり」も「待て」も「伏せ」も「とってこい」もできる。
 うん。ラウは、ほんとにいい子。



「・・・・・・ちょっと寒い? ラウ」


 ほんとは。ちょびっとだけど。ほんとにちょっとだけど。
 寒かったり・・・・・・するんだけど。
 でもでもっ! 外にいなきゃ、ダメなの。

 外にいなきゃ、わかんないもん。
 このお家、すごい広くて大きいから。



 ころころころ。ころころころ。


 芝生の上に、ねっころがって。

「退屈だねー、ラウ」

 ラウは、おもちゃのボールをかじって遊んでる。
 黄色の、テニスボールくらいの大きさのやつ。
 あたしはそれをとって、思い切り投げてあげる。


 たったったったっ


 ラウは、ボールを追いかけて走っていった。

 何でボールを追いかけるのが楽しいんだろ?
 あたしには、よくわかんない。


「ラウー。ラウー?」


 向こうでボールにじゃれて。
 ラウは、あたしのところにもどってこない。
 これじゃ、“とってこい”にならないっ!



 うみゅ〜〜・・・ラウシャンのバカぁ。







 ・・・・・・あれ?






 ききぃー、ばたんっ。って、音。
 小さくて、よく聞こえなかったけど。

 今の・・・・・・車の止まった音?


 きっとそうだ。ううん、絶対にそうだ!



 ぱたぱたぱたぱたっ



 あたしは走る。ラウがやってきて、後ろについてきた。
 広いお庭を、花壇をとびこえて、走り抜けて。


 やっぱりっ! 当たった!



「お兄ちゃんっ。お帰りなさいっ!」


 いきなり飛び出したあたしを。
 お兄ちゃんは、ちゃんと抱きしめてくれた。


「はい。ただいま、リナさん」


 あう〜〜〜、お兄ちゃんだぁぁぁ・・・っ!


 ぎゅうって、思いっきり、抱きついて。
 何となく、安心する。ほっとする。
 ほんとに、帰ってきてくれたんだな、って。



 ゼロス=メタリオム。今、中学三年生。あたしの、お兄ちゃん。
 ホントは・・・・・・あたしのお兄ちゃんじゃ、ない。
 あたしは、メタリオム家の養女で。だから、義理の兄弟。
 だけど、そんなことはどうでもいいって、あたしは、思ってる。
 だって、お兄ちゃんは優しいもん。
 何の血の繋がりもないあたしを、ほんとに、可愛がってくれてる。
 だからあたしは―――・・・お兄ちゃんが大好き。



 まっすぐな黒髪と、紫の瞳。それは、おばさまと同じ。
 背も高くって、優しそうにいつも笑っていて。
 あたしが知ってる中で、一番、かっこいい人。
 二番目がガウリイ。ガウリイもすっごいかっこいいけど・・・でも、お兄ちゃんが一番。
 頭もよくて、いっつもテストでは一番だってフィリアが言ってた。
 ほんとに、ほんとに、すごい人。何でもできて、大人っぽくて。



「お兄ちゃん、お仕事終わったの?」
「ええ。一週間も留守にしてしまってすみませんでした、リナさん」


 ふるふるふるっ。首をふる。

 だって、仕方ないもん。お兄ちゃん、お仕事だったんだから。
 あたしは、よく知らないんだけど。
 どっかのえらい人のパーティがあって、おばさまと一緒に出席しなくちゃならなかったんだって。


「リナさん、泣きませんでしたか?」

 心配そうな顔で、お兄ちゃんが言う。
 
「・・・な、泣かなかったもん」

 ちょっと・・・ウソをついちゃった。
 寝る時に―――家に、お兄ちゃんもおばさまもいないと思ったら、急にさみしくなっちゃって。
 ガウリイの部屋に行って、一緒に寝かしてもらったんだけど。
 それでも、やっぱりさみしくって。
 少し・・・ほんとにっ、少しだけだけどっ! ・・・泣いちゃったんだよ、ね。
 それで、ガウリイ、困らせちゃった。


 後で、お兄ちゃんに言わないように、ガウリイに頼んどこう。うん。



「本当ですか?」
「ほ、ホントだもんっ!」

 ・・・ウソだけど。

「ならいいですよ。それはそうと・・・・・・リナさん、何で外にいたんですか?」
「え? えっとぉ、ラウと遊んでて、それで、その・・・」
「―――もしかして、僕のこと待っててくれたんですか?」

 ガウリイはだませたけど。
 お兄ちゃんは・・・・・・無理だったみたい。


「・・・うん」

 こくり、とうなずいたあたしの頭を。
 お兄ちゃんは苦笑しながら、優しくなでてくれる。


「待っててくれるのは嬉しいですけどね、リナさん。
 まだ寒いんですから、そんな薄着で庭に出ちゃダメですよ。
 外出する時が、ちゃんと上着をはおらないとダメだと言ったでしょう?」
「・・・ごめんなさい」

 普段は、すっごい優しいんだけど。
 でも・・・こうゆう時、お兄ちゃんははっきりと物を言う。
 何だか、ちょっと、お父さんみたい。

 ガウリイにそう言ったら、めちゃくちゃ笑ってたけど。


「今度からは、気をつけて下さいね」
「はーい」
「家に入りましょう。リナさんにお土産を買ってきましたからね」

 
 わっ、お土産?


「なになに? お兄ちゃん、なに買ってきてくれたの?」
「さあ。何だと思います?」
「えー、わかんないよぉ。何なの? 何なの?」
「リナさんの好きな物ですよ」
「あたしの好きな物? お菓子? ぬいぐるみ?」


 お兄ちゃんは、笑ってるだけで、教えてくれない。
 

「ですから、リナさんの好きな物ですよ」
「あたしの?」


 それだけじゃわかんないもんっ!
 だって、好きな物って・・・・・・・・・

 
「お兄ちゃんのいじわるー。教えてよっ!」 

 そう、言いながら。
 お兄ちゃんがいじわるなら・・・あたしも・・・・・・



「お兄ちゃんが買ってきたの、はずれ。それ、あたしの好きなモノじゃないよ?」
「え?」


 お兄ちゃんの驚いたような顔。
 あたしはにこって笑う。
 だって、だって。


「あたしの好きなの、ちがうもん」

 
 お兄ちゃんを、くいって引っ張って。
 思いっきり、背伸びして。



 ちゅっ







「―――あたしの好きなの、お兄ちゃんだもん♪」
 

 

 作者サマより。
はう〜〜〜、あいもかわらず駄目文なのです〜〜〜(涙)
BLUE SKYシリーズ初の、リナちゃんサイドの物語です。
時期的には、リナちゃんの13歳の誕生日の終わった後ですね。3月の中旬くらいです。
・・・んまあ、そんなことはさておいて。
あ〜、こんな駄作を送ってしまってもいいのでしょうか(涙)
気にいらなかったら、どうぞ奈落の底にでも沈めちゃって下さい。
あ、そうそう。ちなみに最後、リナちゃんはお兄ちゃんのどこにキスをしたのでしょう?
ほっぺ? それとも・・・?(笑)



サオリさまより。
素敵な作品ありがとうございました♪♪



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