やさしさに包まれて


ゼロスは食後のティータイムをみんなと過ごしていたリナ達のところへ突然やって来た。
そしてゼロスは「しばらくお借りします」とだけ言って、仲間からリナを拉致した。
食後のみんなとの語らいの時間(?)を引き裂かれ、そしていきなり拉致され、
リナは当然、怒っていた。
しかし、彼に連れてこられた場所は、リナの想像と明らかに違った。
2人は山奥にある大きな1本の桜の木の下に来ていたのだ。

その桜は例えようのないほど綺麗で、
ゼロスが連れてきたとは思えないほどのすばらしいところであった。
ゼロスはリナにこの桜を見せたくて怒られるのを覚悟して連れてきたのだ。
怒られることはなかった。
リナは怒る気がなくなってしまった。
この桜を・・・このすばらしい桜を見たら・・・・・・・・・・・・・

「ね、きれいでしょ?」
淡く輝くその一枚一枚の花びらは吹かれる風に揺らされ、見事な桜吹雪を見せてくれる。
「・・・本当・・・きれい・・・」
落ちてくる花びらを手で受け止め笑った。
そして彼女は駆け出した。
降り注ぐ花びらの下、満面の笑顔を浮かべながら・・・

子供のようにはしゃぐリナを見て、ゼロスは満足した。
今まで戦いが続き張り詰めた空気をまとっていた彼女に、少しでも安らぎを与えたかったのだ。
少しでも、戦いのことを頭から離れられるように・・・。
そしてこの桜に木の存在を知った。
ゼロスは即行動に移した。
結果は大成功!
リナは戦いの中にいることを忘れ、今のこの時間を楽しんでいる。

桜をバックに戯れるリナは、まるで・・・まるで・・・・・・・
そんなリナをゼロスは抱き寄せた。
「きゃ!」
短い悲鳴をあげ、2人はバランスを崩した。
ばさっと桜の花びらの積もる中に2人は落ちた。
桜がそれに舞い風に吹かれていく
「きれいです・・・リナさん・・・」
桜の中ゼロスはリナにキスをした。
触れるだけの、やさしいキスを。
強く抱きしめてしまったら、壊れてしまいそうで・・・そっと・・・・・・・そっと

「・・・ゼロス?」
驚きはあった。
だがリナは彼を受け入れてしまった。
体温すらないはずの彼が暖かく感じられた。
その暖かさと心地よさに包まれたリナ。
心から安らげる気がした・・・。
ゼロスはリナを抱き起こし、桜の木にもたれかかった。
「なんだか・・・眠くなってきちゃった・・・」
目をこすりリナは襲いくる睡魔と必死に戦っていた
本当に心地よかったのだ。
桜の木の下は・・・ゼロスの腕の中は・・・
少しでも力を込めてしまえばすぐ壊れてしまう、綺麗なガラス細工を触るように、
ゼロスはそっとリナを抱きしめる。
「寝てもかまいませんよ・・・暗くなる前には起こしますから・・・」
頭の上から優しく降りてきた。
「ん・・・・・・じゃーよろしく・・・・・ずっと・・・そばにいてね・・・・・・」
ゼロスのマントをしっかりとつかみ、ゼロスにまるまる様に体勢を変えた。
「おやすみ・・・」
そういうとリナは眠りについた。
「おやすみなさい・・・リナさん」
安心して眠るリナに軽くキスをした。

ある山奥の桜の木の下。
魔族に抱かれた人間がいた。
2人の間には他人では理解の出来ない、種族を超えた絆で強く、固く結ばれて、
超えることの出来ない壁を越えた。
2人は今幸せである。

人間は魔族の腕に包まれ、魔族は人間を優しく抱きしめ
2人が共同できるわずかな時間を惜しむように、1つ1つを大切にしながら。

幸せはここにある。

・・・2人は今、幸せである。


 作者サマより
冬の今、季節は違うのですが、このようなものが仕上がりました。
本当はお昼寝を書きたかったのですが、違うものになってしまいました・・・。
無理につなげている様な気もするし・・・。
とにかく、幸せになってもらいたい2人です。



朝倉雪菜サマより。
素敵な作品ありがとうございました。





BACK