夢みた昔


夢を見た。

遠い、遠い昔の夢。私が4,5歳の時の夢。

お母さんの夢を見たの。

・・・・すごく、懐かしかった。



『お母さん・・・・お母さん・・・・』

そう言ってあたし・・・リウナ=インバースは泣いてた。

『どうしたの?リウナ』

二階のベッドに横たわってたリナお母さんはあたしを見ると慌ててカーディガンを羽織って起きてきた。

白いカーディガンに包まれたお母さんの身体はとても白くて、でもあたしと同じ紅い瞳が白に映えてとても綺麗だった。

『何があったの?こんなに怪我して』

『ふぇ・・・・・・』

お母さんは笑ってリカバリィをかけてくれた。

柔らかい光は暖かくて、何だかお母さんと同じ光だった。

『さ、綺麗になったわ。・・・ゼロス!ゼロス!ちょっと来て』

お母さんはゼロスお父さんを呼ぶと、ホットミルクを二つと、クッキーと、小さな机をベッドの傍に置くように言った。

お母さんはベッドに腰掛けると、あたしを呼んだ。

『リウナ、こっちにいらっしゃい。おやつにしましょう』

お母さんの隣に座ると、ゼロスお父さんがミルクとクッキーを持ってきてくれた。

後、私の着替えも。

『リウナ、その服は汚れてしまっていますから、この服に着替えなさい』

お母さんを見ると、静かに笑って頷いたので、服を着替えると、その服はあたしが持っている服の中で一番上等で綺麗な服だった。

『折角のリナさんとリウナだけのおやつの時間なんですから、おめかししても罰は当たらないでしょう』

お父さんはそう言って笑うと、階段を降りていった。



『美味しい?リウナ』

クッキーをかじりながら黙って頷くと、お母さんはホットミルクを一口飲んだ。

『・・・・何があったの?』

それでも何も言わないあたしに、お母さんは笑って言った。

『・・・・・町の子とケンカしたの?』

やっぱり何も言わないでいるとお母さんはそれを肯定と取ったみたい。

『どうして?』

『・・・・・みんなお母さんのこと汚いって言うんだもん』

『それで怒ってくれたの?』

何だか妙に恥ずかしかった。

『ありがとう、リウナ』

あたしはちょっと驚いた。

だって、絶対に『ケンカはダメ』って怒られると思ってたから。

『お母さん?』

『なぁに?リウナ』

『・・・怒らないの?』

そう聞くと、お母さんはちょっと驚いたって顔をした。

『どうして怒られるって思ったの?』

『・・・・・・ケンカしたから』

お母さんは笑ってた。

お母さんの笑顔は好き。すごく綺麗でお花が咲いたみたいなの。

『怒られるようなケンカしたの?』

ちょっと考えて答えた。

『・・・・分かんない』



『昔話だけどちょっと聞いてね』

お母さんはミルクを飲むと、ちょっとずつ話し出した。

『お母さんがお父さん達と結婚した時にね、お母さん、町の人と一杯ケンカしたの』

『・・・そうなの?』

お母さんは懐かしそうに笑ってた。

『ええ。町の人がね、お母さんとお父さんたちに出て行けって言ったの』

『どうして!?』

『・・・・リウナは町の子に何を言われたの?』

思い出すのも腹が立ったけど、お母さんに聞かれたから仕方なく答えた。

『・・・お母さんは悪魔だって。お父さんが二人もいるのはおかしいって』

お母さんはミルクを飲んだ。

多分気持ちを落ち着けるためだったんだと思う。

『お母さんも町の人に同じことを言われたの』

あたしは何も言えなかった。

『だからケンカしたの。そんなの貴方たちに言われたくないって』

『・・・・うん』

『何回も何回もケンカして、でも結局誰も分かってくれないまま今もここにいるけどね』

町の子達は大人にお母さんは悪魔だって言われて育ったからそう思ってるんだろうなって。

・・・・・よく分からなかったけどそう思った。



『リウナは・・・お母さんが悪魔だと思う?』

『・・・・思わない。お母さん、優しいもん』

『でも町の人はお母さんを悪魔だって思ってるのよ?』

『・・・お父さんが二人いるから?』

ええ、と頷くお母さんはすごく悲しそうだった。

『・・・・・お父さん、二人いて当たり前だよ』

あたしはコップに残っているホットミルクを見ながら何となく言った。

『そうね。リウナは生まれたときからお父さんが二人いるものね』

『・・・・うん』

お母さんがクッキーをかじる音が大きく響いた。

『お母さん思うの。もしね、町の人たちもリウナみたいに、生まれたときからお父さんが二人いたらそれが当たり前だと思うわ』

『・・・・・そうだね』

あたしはまだ小さかったけど、お母さんが言いたいことはよく分かった。



『自分と同じじゃないからおかしいって言うのはすごく簡単だわ。でも自分と同じじゃなくても普通だって思うのはすごく難しいの』

『・・・・・・よく分からない』

お母さんは少し考えると笑って言った。

『ガウリイの食べる量とリウナの食べる量は全然違うでしょ?でもガウリイにとっては普通なのよね。リウナから見たら?』

『変。どうしてあんなに食べられるのかなって思う』

『リウナがおかしいって思うのはガウリイが自分と同じじゃないからよね』

何となく分かった気がしてあたしは黙り込んだ。

『誰がおかしいって思っても、自分が普通だって思ったらそれで良いの。もちろん、人に迷惑をかけることは良くないけど』

『・・・・うん』

『だからね、リウナ。

自分が普通って思ってることを汚いって言われたら遠慮しないで怒りなさい。

どれだけ怪我させても傷付けられてもいいから、「みんなが同じことをしたらそれが間違ってても普通なのか」って怒鳴ってやりなさい。

確かにケンカはよくないかもしれないけど、自分が普通だって思ってて誰にも迷惑をかけてないなら、汚いって言われて我慢する必要はないわ』

そう言って笑うお母さんはすごくかっこ良く見えた。

ふとお母さんが階段を指差すので階段を見たら、ゼナスお兄ちゃんとガルお兄ちゃんが傷だらけで立ってるのが見えた。

『お兄ちゃん!?』

『・・・・・父様がリウナはここだって』

お兄ちゃん達は笑って言った。

『安心しろ!リウナの敵はとってやったぞ!』

『また泣かされたら言ってね。いつでも勝ってあげるんだから!』

あっけに取られているあたしをよそにお母さんはおかしそうにずっと笑ってた。

『仕方ないわね。二人とも・・・・・』





そこで目が覚めた。

「・・・・・・・懐かしい・・・・」

「どうかしましたか?リウナ」

言われて隣を見ると、お兄ちゃんがあくびをしてる。

「おはよう、お兄ちゃん」

「おはようございます」

「・・・・懐かしい夢、見たの。お母さんの夢」

ゼナスお兄ちゃんは目を細めて言った。

「母様の夢ですか・・・・・羨ましいですね。僕も見たいですよ」

「・・・・・もっと町の人に怒っても良いって言われちゃった」

ベッド脇の窓を開けると、朝の光が目に飛び込んできた。

「・・・・・・あたし、『普通』だからこれからはケンカすることにするよ。・・・お母さん」

空の向こうでお母さんが静かに笑ったような気がした。



〜〜END〜〜



天野めぐみサマより。
この作品はうちのサイトでも募集していた、魔性シリーズ番外リクのリク作品です。
リクされたのはリナ様、リク内容は「お母さんとリウナのお話」だそうです。
めぐちゃん、素敵な作品ありがとうございました。



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