光の世界
「ひっく・・・。お母さん・・・・。何で死んじゃったの?」
少女は薄暗い自分の部屋で布団に突っ伏して泣いていた。
どうしようもなく出る泣き声。少女は必死にかみ殺した。
父親や二人の兄に心配をかけたくなかった。みんな自分にどうしようもなく甘い。
それは彼女が一番母親に似ているからだろう。
母親譲りの赤い髪。赤い瞳,大きな目。リウナは瓜二つだった。彼女の母親,リナ=インバースに。
「・・・・リウナはまた泣いてるのか?」
「ええ。リナさんが死んだことがよほどショックだったようですね。」
「あいつは一番リナに懐いていたからな。」
ガウリイ=ガブリエフとゼロス=メタリオムは大きなため息をついた。
二人の最愛の妻リナが死んでからもう既に一ヶ月が経つ。
リナは大きな病に冒されて死んでいった。三十という若さで。
表向きはそういうことになっている。
二人の悩みは子供達だった。十八の長男と十五の次男。そして十二になる末娘。
まだ年端の行かない子供達を残してしまうことの辛さ。三人だけで大丈夫だろうか。
最もそう思っているのはガウリイだけでゼロスの心配事はまた別のことだったが。
「あいつらだけでやっていけるかなあ・・・。」
「おや?そんな心配をしていたんですか。大丈夫ですよ。ゼナスはしっかりしていますから。」
「まあ、それはそうだが・・・。で?お前さんさっきから何を考えてる?」
「え?もっとゼナスに魔法を教えておけばよかったかなあ,とか。後はガルの頭をもう少し開発したかったなあとか。」
「・・・・それは嫌味か?」
「おお!分かりましたか!素晴らしいです。珍しいこともあるものですねえ。」
「あのなあ・・・。」
「なにせガルは貴方の才能をしっかり受け継いでいますけど,僕は頭の中身まで受け継いでいないか心配してます。まあ、ガルは貴方と違って飲み込みは早いですし、記憶力もいいですから助かりますけど。」
「俺を一体なんだと思ってるんだ?」
「くらげです。しかも退化傾向にある。」
「そうか・・・って,おい!」
・・・何年経ってもこの二人の息はしっかりと合っているようだ。
「まあ,それはともかく。聞いているんでしょう?ゼナス。」
「ええ,ゼロス父様。」
そう言って突然出てきたのはゼロスとリナの間の息子,ゼナスである。
現れたゼナスは紫の髪をし,白い法衣を纏っていた。彼は魔法の才能に長けていた。
ゼロス譲りの空間を渡る術,リナ譲りの大きなキャパシティ。
その全てを彼は主に白魔法に使っている。
時々遊びにくる母親の友人,アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン女王に習って。
黒魔法も大体は使える。ただし、彼の大体が一般人の大体と大きくかけ離れていることは言うまでもない。
何せ黒魔法最強と言われるドラグ・スレイブをいともあっさりと使うのだから。
「ガルはどうしました?」
「呼んできますか?」「ええ。」
「リウナは?」
一瞬沈黙したゼロスに代わってガウリイが言った。
「連れて来い。あいつにも言っておかなきゃな。」
「!それは早すぎます!あの子はまだ・・・!」
「・・・ゼロス。お前はどうも過保護すぎる。それにあいつは聡い。信用してやれ。それにリナが死んでもう一ヶ月。約束の日だ。」
「・・・・それはそうですが・・・・。」
「あいつはリナの頭を受け継いでるから大丈夫だって。」
「・・・・結局どうするんですか?父様達。」
「分かりました。二人とも呼んで来てください。」
ゼナスが出て行くとガウリイはぽつりと呟いた。
「長かったな・・・この一ヶ月・・・。」「ええ・・・。」
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