光の世界
金髪をした少年が剣の稽古をしている。彼はガル。リナとガウリイの息子であり,剣の才能に優れていた。
「ガル。父様達が呼んでます。」
「ん?ああ。兄さんか。分かった。・・・何だろう?」
「多分・・・母様のことじゃないかと・・・。」
「リウナは?呼ぶのか?」
「はい。全員呼んでくるように言われました。」
「そっか。じゃあ,呼びに行こうぜ。」
そう言ってガルは剣をしまうと家の中へと入っていった。
ゼナスはそこらに散らばっている何かの破片を元の机や椅子に戻すとガルの後を追いかけた。
「いつも母様に言われているでしょう。椅子や机を稽古道具に使わないでください。」
「ああ。悪かった。でも直してきてくれたんだろう?」
「僕にばかり頼っていて,母様が空から雷を落としたらどうするんですか。」
・・・リナならやりかねない。
「それは怖いな。悪かった!母さん!」
「今更遅いです。」
ガウリイとゼロスの漫才はこの二人に受け継がれているようである。
そうこうしているうちにリウナの部屋の前に来ていた。
リウナはガウリイとリナの間に生まれた子供で,リナにそっくりの容姿,声,をしていた。だが,まだまだ精神的に弱く,甘えたがりなところがあった。
魔法に長け,その能力は未知数。というのは幼い頃,ゼナスが練習していたフレア・アローを見様見真似で使い,一発で成功してしまった。天才美少女魔道師を公言して憚らないリナでさえ,「あたし以上の才能がある」と認めた。だが,リナは彼女に魔法をまだ教えてはいなかった。
ゼナスが扉を叩く。
「・・・・リウナ?」
中から慌てたような気配がして声が聞こえる。
「なっ・・・なに?ゼナスお兄ちゃん。」
「父様達が呼んでいます。一緒に行きましょう。」
「うっ・・・うん!今行く!」
数秒の後扉が開かれる。
「お待たせ!行こう!」
「呼んできましたよ。」
数分後。ゼナス,ガル,リウナの三人はガウリイ,ゼロスの前に来ていた。
「はい。ゼナス,ご苦労様でした。」
「いいえ。」
「話って何だ?」
「・・・・リウナ?目が赤いが・・・?」
知っていてガウリイは質問する。
「え!?ああ,何か目にゴミが入って。」
「そうか。とにかく座れ。」
座った三人にゼロスとガウリイは話し始めた。
「リナさんが死んでもう一月ですね。」
「お前達,リナが何で死んだか知ってるか?」
「確か・・・病気で亡くなったと・・・。」
「そうですね。貴方達にはそう言っていました。」
「・・・?違うのか?」
「はい。一つ聞きますが。貴方達,重い病気ってしたことありますか?」
「病気の一つや二つしてるけど・・・,言うほど重い病気ってなったことないよな。。」
ゼナスが首をかしげる。
「僕も記憶にないですねえ。」
「私がしんどいってお母さんに言ったら,すごく楽になったような気がしたんだけど・・・。」
「おお!さすがリウナ!よく覚えてたな!」
さすが俺の娘!とかほざいているガウリイを無視してゼナスがはっと顔を上げた。
「・・・・・そういうことですか・・・。」
「はい。そういうことです。」
「はい。どういうことですか?」
「・・・ガル?僕の真似をしなくてもいいんですよ?」
リナ愛用のスリッパをちらつかせながらゼロスがにっこりと笑う。
「あ〜・・・・・すみません。」
この世で最も怖いものはリナとゼロスの笑いだと認識してしまっているらしい。
「僕達の病気は母様が治していたんですね。」
「正確には少しずつ病を吸い取っていたんですがね。」
「・・・?どうしてお母さんそんなことしたの?」
「リナさんは知っていたからです。」
「何をだ?」
「自分が死ぬ日を。」
「!?」
「お前達が一人前になるまで生きていられないことをリナは知っていた。だからせめてもの償いだと言ってお前達が重い病気になるとそれを和らげようと半分ほど代わりに受けていた。だからリナはよく病気で倒れていただろう。」
確かにリナはいつもガウリイ達が語って聞かせる武勇伝は嘘だと思うほど病弱だった。
「じゃあ!じゃあお母さん私達のせいで死んだの!?」
「・・・それは違いますよ。リウナ。」
「だって・・・!」
「リナさんはもともと寿命だったんです。それを自分がしたことで死期を早めてしまった。・・・・それだけのことです。貴女が気に病む事ではありません。」
「さっきから何も言わないが,ちゃんと理解してるか?ガル。」
「ああ。ガウリイ父さんとは違うって。」
げしっっ!
「一言多い!」
「はい・・・すみません・・・。」
「貴方達のことをリナさんはすごく心配してましたよ。特にリウナ,貴女のことをね。」
「ゼロス父様,聞いてもいいですか?・・・・何故母様は死んだのですか?」
「リナは・・・いつ死んでもおかしくないほど衰弱していた。本当はお前達の病を吸い取りつづけて今まで生きていたのが不思議な位だったんだ。」
「じゃあ,お母さんは何でそんなに弱っていたの?」
「それは・・・。」
言いよどむガウリイの代わりにゼロスが答える。
「リナさんは使いすぎたんですよ。禁呪と呼ばれる魔法を。」
「・・・・ラグナ・ブレードにギガ・スレイブ・・・ですか。」
「そうです。貴方も知っているでしょう,ゼナス。あの呪文はたかが人間の,しかも一介の魔道師が使うには過ぎた呪文・・・。彼女はギガ・スレイブを僕の知る限り三十回ほど使っています。二回は完全版。僕が知らないところでもっと使ってるでしょうけどね。ラグナ・ブレードは数え切れませんが・・・。少なくとも十回は使っていたと見て間違いはないでしょう。そしておおよそ人間の身では不可能と言われる呪文,ブラスト・ボムやゼラス・ブリッド。魔力増幅版とは言え,彼女の身体には荷が勝ちすぎました。」
「あいつがいくら持って生まれた大きなキャパシティを持っていたとしても,それだけ使っていれば体も壊す。それにあいつは二回も金色の魔王を身体の中に呼び出している。」
ゼナスとガルは黙り込んだ。それがどんなに危険なことかは二人がよく知っていた。
「でもリナさんは幸せそうでしたよ。だから貴方達がここにいるんですから。そうでしょう?」
「・・・そうだな。」「ええ・・・。」
「リウナ。貴女がそんなに悲しんでいてはリナさんも悲しみますよ。」
「・・・・うん。」
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