光の世界
ぽん!ガウリイが手を打った。
「そうだ!お前達にリナから手紙があるぞ!」
「何ですか!早く出してくださいよ,ガウリイ父様!」
「そうだぞ!何で今まで出してくれなかったんだ!」
「リナさんの遺言だったんですが・・・,本当に忘れていたんじゃないでしょうね?」
「それぞれ一つずつあるぞ。これはゼナス,お前にだ。」
・・・・・・図星なのだろう,冷や汗がにじみ出ている。
「有難うございます,ええと・・・ゼナスへ。」
―ゼナスへ
いきなりこんな事になってびっくりしたでしょうね。実はゼロス達は気付いていたかもしれないけど,あたしは,結構ギガ・スレイブって使ってたのよね。結婚した後も。そうね〜・・・百回近くかな。近くの湖にその術をかけて,いつも金色の魔王と話をしていた。てへ♪そのときにあたしの寿命も知ったんだけど,ゼナスには金色の魔王からの伝言があります。魔族として生きる道か人間として生きる道かどちらかを選びなさい。魔族として生きる場合には湖に向かい黒魔術を唱えること。人間として生きる場合には白魔術を唱えること。これは貴方が自分で選ぶことが出来る。そして魔族として生きることを拒否しても,何も貴方には手出ししないことを約束させました。よく考えて選んでください。 リナ=インバース―
「・・・・母様・・・。てへ♪って。そんな魔法を百回も使ったら死ぬのは当然ですって・・・。」
「リナ・・・。相変わらず無茶な奴だな・・・。知ってたけど。」
「本当に・・・。あの人には参りますね・・・。知ってましたけど。」
ふう。ため息が部屋中を包んだ。
「それで・・・,兄さんはどうするんだ?魔族として生きるのか?人間として生きるのか?」
「そもそも何でゼナスお兄ちゃんは魔族になれるの?」
ぎくっ。
「それは・・・・何ででしょう?」
「何で?ゼロスお父さん?」
「それは・・・なあ?ゼロス。」
「ねえ?ガウリイさん。」
「それは・・・何だ?」
「白状しないと母様のスリッパで叩きますよ?」
「もちろんリウナに叩かせるからな。」
「そしてリウナには「何やってんの!あんた達!」と叫んでもらいます!」
「それは!それだけはやめてええ!」
リウナはリナに瓜二つである。もちろん声も似ていた。
「それは・・・僕がもともと魔族だからです。」
「なにいいっっ!?」
「L・・・金色の魔王様が魔族から追放なさいまして・・・。現在にいたると言うわけです。」
「お兄ちゃん,どうするの?魔族になっちゃうの?」
「僕はもともと魔族なんかになる気はありませんよ。」
「なんか・・・。魔族なんか・・・。自分の息子に言われるなんて・・・。」
「何だかショックを受けているようだが。放っといていいからな。・・・お,これはガルあてにだ。」
「ああ。えっと・・・ガルへ。」
―ガルへ。
元気?まあ,あんたは元気だけがとりえだからね。とりあえず,剣の腕を磨くのもいいけど,頭の中身を磨くのを忘れないように。同封している封筒は,アメリアへの推薦状です。貴方の腕なら,アメリアも喜んで近衛隊長か何かにしてくれるでしょう。あんたは昔からそういうことに興味があったからね。一応推薦状を書いたけど,押し付けじゃないので,いらない場合は破って燃やすなり何なりしてね♪じゃあ,そゆことで♪ リナ=インバース―
「そゆことって・・・。どゆこと?」
「さあ・・・。」
「って言うか元気だけがとりえって・・・。俺はガウリイ父さんみたいに顔と剣の腕だけ良いわけじゃないっての。」
「・・・・・どういう意味かなあ。」
「そのままの意味なんじゃないんですか?」
「そうだと僕も思いますが。ガウリイ父様。」
「そうそう,その通り。」
「いや・・・それはいくらなんでもお前らひどくないか?」
「おや?分かってたんですか。そういえば貴方は昔からくらげと言うわけではありませんでしたからねえ。」
「え?そうなのか?」
「ええ。この人は昔,それはそれはおおよそ人間とは思えないような伝説のですね・・・。」
「おい。そんな事どうでもいいだろう?」
「よくありませんよ,ガウリイ父様。そもそもですね・・・。」
皆手紙やリウナそっちのけでワイワイやりだしてしまった。
こんな時は・・・・。すうとリウナが息を吸い込む。
「いい加減にしなさい!!あんた達ドラグ・スレイブを浴びたいの!?さっさと座る!!」
「はいいいっっ!!」「すまん!リナ!」「申し訳ないです!リナさん!」
「母さん許せええっっ!」「謝りますからそれだけはああっっ!!」
・・・・この家族の位置関係がよく分かる一言だ。
「何てね♪似てた?」
「驚かさないでくださいよ,リウナ。母様だと思ったじゃないですか。」
「全くだ。」
「親を騙そうなんていけない子ですね,リウナ。」
「そうだぞ。それはよくない。」
「騙されたくせに何言ってるの。もう一回やってほしい?」
声が見事にハモる。
「いえ。もう充分です。」
どうやらリウナはこの家族のbQのようだ。bPがリナなのは言うまでもないだろう。
だがリナが死んでしまった今,bPはリウナである。少なくともリウナはそう名乗っている。最下位はゼロスかガウリイかどっちだろう?皆のあまりの反応の良さにリウナは声を出して笑う。
「やっと笑いましたね。」「あ・・・。」
「この家でbPを名乗るならいつも笑っていろ。母さんみたいにな。」「うん。」
「リナさんのように不敵な笑みは勘弁して欲しいですけど。」
「俺もそれだけは嫌だな。ほら,お前の手紙だ。」
「・・・ありがとう。」
四人はリウナを急かす。
「なんて書いてあるんだ?早く読めよ。」
「えっと・・・・。リウナへ。はぁい♪元気?」
ずこっっ!
「あ・・・あいつ,何考えてるんだ?」
「相変わらず分からない人ですね・・・。」
「はあ・・・。母さん・・・・・・。」
「そ,それで?続きは何ですか?リウナ。」
「う,うん・・・。」
―リウナへ。
はぁい♪元気?・・・そんなわけないわね。貴女はいつもあたしの後ろにいて離れなかったもの。リウナ。よく聞きなさい。あたしがいつも貴女に語った伝説。『赤眼の魔王,人の内に封印される。己が心に負ける時彼の者蘇り世界を闇で覆うだろう。』これは作り話ではないわ。あいつは人に転生する。そして赤眼の魔王は貴女の中にいる。正確には貴女の心の中にいる。恐れては駄目。恐怖は奴を目覚めさせる。まだ小さい貴女に酷なことかもしれない。でもいつかは分かること。ならば今言います。強くなりなさい,リウナ。誰にも縛られないように、何にも捕らわれないように。精神的に強くなりなさい。何があっても揺らぐことがないように。悲しいことが起こってもいつも前だけを見つめていなさい。貴女の後ろは必ずゼナスとガルが守ってくれるわ。あたしがいつも言っていた平和とは言えないかも知れないけど,皆の顔が恐怖に歪むことのない光の世界に生きなさい。貴女にはその力がある。貴女が赤眼の魔王なんかに負けるはずがないわ。何たって貴女はリナ=インバースの娘なんですからね。 リナ=インバース―
「・・・・言ったでしょう?リナさんはいつも貴女を心配していました。」
「自分が死んだ時に一番悲しむのはリウナだって言ってな。」
「・・・ううん。一番悲しいのはお父さんたちだよ。そうでしょう?」
「・・・・・・そうだな。」「・・・ええ。」
悲しそうに笑うガウリイとゼロス
ポウ・・・・・・・・・。
「!?」
なんと三人が開けた封筒が輝きだした。不思議に思った三人がそれぞれ封筒の中を覗いてみると,魔法陣が記されていた。
魔法の放つ光は徐々に大きくなり一つに集まるとそれは人の形を成した。
「なっ・・・・。」「あの人は・・・!」「・・・・・・・・お母さん・・・・?」
「来たか・・・。」「そうですね・・・。」
魔法の光が構成しているリナは皆に笑いかけると口を開いた。
黒いマントにバンダナ。昔と変わらぬリナの姿。
「・・・・・・元気?あたしの子供達。直接見れないのが残念だけど,許して頂戴。これはあたしが死ぬ前に封印しておいた映像よ。その中にあたしの精神体の一部が封じ込めてある。一ヶ月の間手紙を渡さなかったのは,貴方達の心が少しでも落ち着くのを待っていたから。」
そう言うとリナはガウリイとゼロスに向かって手を差し伸べた。
「・・・・お疲れ様,ガウリイ,ゼロス。無理に頼んで悪かったわね。」
「ええ。全くです。まあ,今更驚きませんがね。」
「ああ。この一ヶ月。長かったよ。」
「どういうことっ!?」
リナのもとに行く二人に耐え切れずリウナが叫ぶ。振り返ってとんでもない事を二人は語りだした。
「俺達は・・・・もうとっくに死んでいるんだよ。」
「一ヶ月も前にね。」
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