光の世界


「どういうことですか・・・!?」

「僕達はリナさんにお願いされたこの一ヶ月,僕の元上司である獣王様にお願いして仮初めの身体を与えていただきました。」

「そうしたのはお前達が一度に親を亡くす悲しみには耐えられないとリナが判断したから。」

「昔リウナが大熱を患ったことがありました。その病を吸い取った時,もともとひどく衰弱していたリナさんには貴方達に話をする時間がなかった。ましてやリウナは3歳ほどのことだった。」

「だからその病だけは俺達に分けさせたんだ。」

ガウリイとゼロスは初めリナが子供の病を代わりに受けると言い出したとき,猛反対した。

―リナさん!本気ですか?―

―ええ。―

―・・・・お前がそんなことをする必要はないんだ。何故そんなことをする?−

―あたしはそんなに長くないわ。―

―!―

―あたしはこの子に何も出来ないかもしれない・・・。だからこれくらいはしてあげたいの。―

―・・・・・・・・・分かった。―

―ガウリイさんっ!?何を・・・!―

―こいつに何を言っても無駄なのは知ってるだろう。そのかわり。少しでも身体の具合がおかしかったらすぐに言うんだぞ。―

―・・・分かりました。くれぐれも気をつけてくださいね。―

―分かってる。ガウリイ、ゼロス。無理言って悪いわね。―

リナが何を言っても無駄だと言う性格を承知しているからしぶしぶ二人は承諾した。だがあの時ばかりはリナが何と言おうと許さなかった。

―リナ。具合はどうだ?―

―今日は大分良いわ。・・・?どうしたの?二人とも。―

―リナさん。その病を僕達に分けてください。―

―何言ってるの?そんな馬鹿みたいなこと・・・。―

―馬鹿なことじゃない。俺達に移すんだ。―

―そんなこと出来るわけないでしょ!!―

―リナさん。貴女の身体がもう限界だって事くらい僕達に分からないと思ってたんですか?―

―・・・駄目よ。あんた達を苦しめる事が出来ると思うの?そんな事に何の意味があるの?―

―リウナはどうなる?あの子はまだ小さいんだ。お前がまだ必要なんだよ。―

―何より僕達はまだ貴女と一緒にいたいんです。貴女が死ねばもう会えない・・・。僕達にとって死ぬ以上の苦痛を味わせる気ですか?―

―それは・・・。―

―病の苦痛なんてほんの一時だ。お前がいなくなる苦痛に比べればはるかにましなんだよ―

―・・・・・・嫌よ!絶対嫌!―

―この件に関しては絶対譲りません。抵抗するなら貴女も子供達も皆殺して僕達も死にます。―

―俺達は本気だからな。―

―・・・・あたしを脅す気!?―

―脅しているのは貴女じゃないですか?僕達にそこまでさせているのは貴女ですよ?それくらいしないと貴女は納得してくれそうにないですからねえ。全く罪深いのは貴女のほうですよ。―

―・・・・っ!―

―どうするんだ?俺達に病を分ければそれでよし。それとも・・・・皆で心中するか?―

―・・・・・・分かったわよ!―

―最初からそう言えばいいのに。―

―全くです。・・・・・僕達がそんなことするわけないでしょう。―

―騙したの!?―

―あのなあ。俺達に出来ると思うか?お前を殺すなんて思いつかないくらい愛してるんだぞ?―

―僕ならやりかねないと思っているからこうして騙されてくれたんでしょうけどね。―

―ごめんなさい・・・・。―

―何故泣くんです?泣かないでください。僕もガウリイさんも貴女に泣かれると弱いんです。―

・・・・そんなやり取りの末,現在この状況なのだ。



「そんな・・・。」

「リウナが十二になった春,リナさんにはもう起き上がる力すらなかった。でも僕もガウリイさんもやっぱりリナさんを一人で逝かせることは出来なかった。だからリナさんに殺してもらったんです。」

「・・・・・・・どうやって?」

質問するゼナスの声は震え,掠れていた。

「リナにラグナ・ブレードで斬ってもらった。」

「そして僕達が仮初めの身体を得てこの世界に戻ってきた瞬間,・・・・彼女は死にました。」

「この身体の期限は一月。お前達に真実を話し,一言ずつ言うまで。」

「お父さん!」

リウナが父等に駆け寄ろうとするが,見えない壁に阻まれる。

「ゼナス。貴方には僕の全ての知識と術を教えました。」

「あたしの魔法をも貴方は受け継いでいる。」

「ガルはまだ一人で生きるには早いだろう。リウナは話にもならん。その力と知識でこいつらを支えてやってくれ。」

「・・・・・・分かりました。」

「ガル。貴方にはガウリイさんの剣術がある。」

「今はまだ一人で生きていくのは無理だろう。だけど,俺の全てをお前に教えた。それは十分にゼナスとリウナを助けることが出来るはずだ。だからと言って精進を怠るなよ。」

「・・・・・ああ。父さん。」

「・・・・・リウナ。」

「やだ!お父さん達行かないで!もう少しここにいて!」

「リウナ。リナさんの手紙にもあったでしょう。貴女は強い子です。そして優しい。本当にリナさんに良く似てます。」

「リウナ。強くなりなさい。悲しみに負けないように。人が死に行くのはどうしようもないこと。あたし達はそれが人よりほんの少し早かっただけ。貴女にはまだ何も教えていない。そしてゼナス、ガルにも私達の全てを教えたとは言えない。皆にメモリーオーブを遺しています。強くなりなさい。悲しくても笑っていられるように。辛くてもくじけないように。」

「ほら。リナもああ言っている。お前は強くならなきゃ駄目だ。身体も,心も。俺達が死ぬからといって別に存在がなくなるわけじゃない。俺達が生きていた証はお前自身だ。だから泣くな。」

「そろそろ時間よ。やっと貴方達に会える。」

「そうですね。行きましょうか,ガウリイさん。」

「・・・・・・そうだな。そうそう。アメリア達にもこの事を伝えてやってくれ。あいつらはまだ知らない。リナが死んだことすらも。この一ヶ月の間教えないように言われたからな。」

「・・・・・・・・きちんとお伝えします。父様達。」

「セイルーンへ行きなさい。アメリアに会って話をして。きっと貴方達の力になってくれる。」

「・・・・・・もう行きます。さよなら,皆。」

「長かったな。この一ヶ月。」

「ええ。やっとリナさんのもとへ行ける。」

「こんなことを頼みやがって,会ったら存分にからかってやる。」

「・・・・・・全くです。」

ガウリイの笑いとゼロスの苦笑だけが風に散る。後には何も残らなかった。

ガウリイがリナに貰った指輪と,ゼロスがリナに貰った指輪を残して。



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