光の世界


リウナは床に座っていた。周りにはリナの遺書が散らばっていた。

どれだけ泣いただろう。今は何時で,朝なのか昼なのか,それとも夜なのか。

悲しみに沈むリウナの中で何かが目覚めようとしていた。紅くて凶暴な何か。彼女は小さいながら必死に戦っていた。

リウナに語りかける声と。声は言った。

『悲しいだろう?辛いだろう?我を目覚めさせればその悲しみから開放されるぞ?』

リナの最後に言った言葉を思い返し,リナの遺書に目を走らせ・・・。彼女は自分を抑えていた。この前もゼナスが心配して様子を見に来てくれた。その彼をリウナは追い返してしまった。これくらい自分で何とかできると思ったから。だがもう彼女だけではどうしようもないところまで来ていた。

その時。リウナの部屋の扉が開いた。

「リウナ。母様のメモリーオーブの在りかが分かりました。」

「こっちに来い。・・・・!?リウナ!?」

リウナの周りには闇が渦巻いていた。

「お兄ちゃん・・・・・逃げて・・・・!」

赤眼の魔王が復活しようとしていた。

ゼナスがとっさに結界を施した。これで少しの間は魔王の復活を阻止していられる。

「大丈夫ですよ,リウナ。母様が言っていたメモリーオーブ,探しに行きましょう。」

ガルにはゼナスの真意が分かった。メモリーオーブが見つかればリウナに生への希望が戻ってきて,魔王を再び封じ込めることが出来るかも知れない。彼はそれに賭けたのだ。



リウナに事の次第を説明し,父親達の指輪を持って三人はリナの部屋を訪れた。

「リウナ。おそらく貴女が父様達の指輪を持つことで”鍵”は発動します。」

「だからこの指輪はお前が持っていろ。」

「あたしがその前に魔王になっちゃったら?」

「そんなことはありません。」

「何で?」

「リウナがそんな奴に負けないって信じてるからだ。」

「・・・・分かった。」

そう言ってリウナは部屋の中を隈なく歩き回った。

しかし指輪は反応しなかった・・・。

「おかしいですねえ・・・。ここじゃないとすると一体どこに・・・・?」

「!おい!母さんが最後に言ってたところ!」

「・・・・・・セイルーン王国ですか・・・。」

「・・・・でもそれまで持つか自信ない・・・。」

無論結界が,である。

「・・・・いいですか?リウナ。母様が最後に言ったことは何ですか?」

「・・・・・強くなりなさいって。悲しくても笑っていられるようにって。辛くてもくじけないようにって言ってた。」

「そうですね。父様達は母様が貴女のことをいつも心配していたと言っていました。」

「母さんの手紙にもあっただろう?お前は絶対に俺達が守ってやる。だから泣くな。」

「・・・・・・・・・・出来ない。怖い。」

「リウナ!」

突然ゼナスは声を荒げた。リウナとガルが驚きに目を見開く。

「いい加減にしなさい!そんな事ばかり言って母様が喜びますか!?貴女はあのリナ=インバースの娘なんですよ!そんな弱い人間じゃないはずです!」

「・・・・・お母さんの娘だからってあたしが強いわけじゃない!」

これにはガルも怒った。

「じゃあ!俺達が強いとでも思ってるのか!?俺達だって悲しいけど!泣きたいけど!そんな事をすれば母さんならどやすに決まってる!「もっとしっかりしなさい!」ってな!」

「じゃあ,どうすればいいの!?」

リウナはほとんど半泣きである。

「だから母様は強くなりなさいって言ったんです!悲しみに負けないようにって!貴女なら魔王なんかに負けるはずないって。自分の娘なんだからもっと自信を持っていいってそう言ったんです。」

「でもお母さんあたしのせいで死んだ・・・・。あたしの病気を代わりに受けたから・・・。」

「母さんはこうも言ってたぞ?人が死ぬのはどうしようもないことで,自分達はそれが人より早かっただけだって。母さんはお前のせいじゃないって言いたかったんだよ。」

「それにギガ・スレイブを危険と知っていて使っていたんですから,母様の場合自業自得と言ってもいいんです。」

その時。部屋が歪んだと思ったら三人は切り取られた空間の中にいた。正面には鏡がついている。

「ここは・・・・?」

「僕達はどうやら空間の中に閉じ込められたようですよ。そしてこんなことができるのは・・・。」

「魔族!!」

叫ぶと同時にガルが父親から譲り受けた光の剣を抜き放つ。と,どこからともなく声がした。

『物騒なものを振り回すものじゃないよ。』

若い女性の声がしたと思ったら鏡にその姿が映し出された。

「・・・・・・どなたですか?」

『おやおや,お前を魔族に誘った存在をもう忘れたのかい?つれないねえ。』

「金色の魔王・・・・!」

『その呼び名はあまり好きじゃないね。Lと呼んでくれないか?』

「僕達に何か御用ですか?確か魔族へのお誘いはお断りしたはずですが・・・。」

『あたしがあるわけじゃないんだけどねえ。お前達とコンタクトを取れってうるさく言ってくる輩が一人いるんだよ。・・・・ふうん。お前がリウナかい。リナ=インバースに良く似ているねえ。お前も疲れるだろう,ゼナス。結界を解いていいよ。』

ゼナスは困惑したが,確かに結界を張りつづけるのは疲れる。結界を解いたと同時にあの紅い声が聞こえる。

『我を目覚めさせよ。悲しいことからも辛いことからも開放してやろう。悲しみに身を委ねるがいい。』

『・・・お前,あたしの前だよ?頭が高いとは思わないのかい?引っ込んでおいで。それともあたしと遊んでくれるのかい?最近運動ばっかりしているから,少しは骨休めが必要かもねえ。』

・・・・・・相も変わらずおおよそ魔王と呼ぶには相応しくない性格をしている。

Lの恫喝に紅い声はすぐに収まり,リウナの中に戻っていった。

「・・・・・父さん達が言っていたとおりの性格だな。」

「まあ,さすがにこれほどとは思いませんでしたが・・・・。」

『・・・父親そっくりの性格をしているねえ?お前達。』

「誉めて頂いて光栄ですよ。ところで僕達に用がある方とはどなたでしょう?」

『それは・・・・。』

げしっっ!Lが何者かに張り倒された。そして聞こえてきたのは懐かしい声だった。

『あんたっ!前置きが長すぎるのよ!いい加減にして欲しいのはこっちよ!全く!大体あたしはコンタクトを取ってって言っただけよ!何であんたがしゃしゃり出てくるの!?』

『お前!リナ!あんた,あたしを足蹴にするとはいい度胸してるじゃないか!』

『・・・・L様。リナさん。いい加減にしてもらえませんか?子供達が見てるんですから。』

『用があるなら早くしろよ。』

「か,母様・・・・?」「父さん達・・・?」

Lと一緒に出てきたのは死んだはずのリナ=インバースと二人の夫だった。



NEXT