魔性の瞳


一行は月が映し出された湖のほとりで話をすることになった。
「じゃあ,説明するわ。その前に,ゼロス!皆に謝りなさい!」「・・・・なんでですかぁ・・・?」
不服そうである。説明もなしで謝れでは無理もないが。
「あんたがいらない事するからこんなややこしい話になったのよ!その責任は当然とるべきでしょ!」
「申し訳ありませんでしたぁ。」べちっ!
どこまでも不服そうなゼロスに無言でスリッパが飛ぶ。
「・・・ア・・・アストラル・ヴァイン付きのスリッパ・・・・・・・。」
「アメリアとゼルガディスは帰って。」「!!」
二人は話を聞くつもりでいた。ここまで巻き込まれたのだから,とことん巻き込まれるつもりだった。
「理由は?」「リナさん・・・私もお話が聞きたいです。」
「簡単な理由よ。これはあたし達の問題であって,あんた達には関係ないことだから。あんた達には話す必要もないし,話すつもりもないわ。」
ゼルガディスは無言で頷いたが,アメリアは納得できなかった。
「私はここに残ってリナさんのお話が聞きたいです!」「アメリア!」
リナの激しい叱咤の声が響く。
「あんたがいる限り話すつもりはない!大体,あんたはセイルーンの姫でしょう!?本来の立場を考えなさい!!」
「ですが!!」
ふと。リナの声が和らいだ。
「・・・・アメリア。どうせあんた達ガウリイ宛ての手紙読んだんでしょ?あたしが何を書いたか覚えてる?」
びくと。アメリアの体が大きく震えた。ガウリイへの手紙に何が書いてあったか。
−あたしは皆に『暗い世界』じゃなく,『明るい世界』に生きていて欲しい−
その瞬間アメリアはリナの気持ちを汲み取っていた。
リナはこれ以上アメリア達に踏み込んで欲しくないのだろう。この後例えば死闘が繰り広げられるかもしれないから。
「・・・分かったら帰って。」「・・・・・・・・・分かりました。」
ゼルガディスとアメリアは帰っていく。この後の出来事も知らずに。


二人が去った後には気まずい雰囲気が漂っていた。
「・・・・・綺麗な月ね。」「・・・・はい。」「・・・・ああ。・・・・・・・説明するんだろ?リナ。」
「そうね。離れていてくれるかしら?呪文を唱えるから。」
訝しがる二人をよそにリナは呪を唱え始めた。魔力増幅の呪を。
「リナ?何だってそんな呪文を・・・・。」「リナさん?」
「あれを呼び出すにはしょうがないのよ。」
魔力が増幅されたリナはいつぞやゼロスが見たように,光り輝いていた。
「あいつ?」「・・・・・!リナさんまさか・・・・!」
「しょうがないの。ロード・オブ・ナイトメアを呼び出すにはこれを唱えなきゃ。」
そう言ってリナは寂しそうに笑った。アメリアにあの夜見せた笑いだった。

―闇よりもなお昏き存在 夜よりもなお深き存在・・・・・

呪を詠唱しながらリナは二人に問う。リナの周りには闇が渦巻き始め,彼女に近づくことはかなわなかった。
「・・・・ガウリイ。あたしのこと好き?」「・・・・あ・・・ああ。」
「・・・・・・ゼロスは?」「勿論です!」それを聞いてリナは悲しそうに微笑う。
「ありがとう。あたしも二人のことが好きよ。」

−混沌の海よ たゆたいし存在 金色なりし闇の王・・・・

「リナさん!一つ聞いていいですか!?」

−我ここに汝に願う・・・我ここに汝に誓う・・・

「・・・何?」「何故こんな・・・!」「・・・・・・仕方ないの。約束だから。」

−我らが前に立ち塞がりし 全ての愚かなる存在に・・・・

「・・・・約束?」「そう。約束。」

−我と汝が力以て・・・・等しく滅びを与えんことを・・・・!

「二人とも好きよ。・・・・・さよなら。」

−・・・・・重破斬(ギガ・スレイブ)・・・・―

リナの意識は闇に呑まれた。


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