魔性の瞳


『それであたしがここにいるんだよ。』
Lはそう言って話を締めくくった。
「なるほど。事情はよく分かりました。」「・・・・あ〜・・・・つまり?」どげしっ!
いつもならリナがここで突っ込むのだが,今回リナはLである。代わりにゼロスが突っ込んだ。
「L様がリナさんに,「おまえの望みをかなえてやるから,自分に身体をよこせ」と言ったんです。」
Lの頬がひくひくと引きつる。
『・・・・はっきり言うねえ?ゼロス。今すぐ滅ぼしてやってもいいんだよ?』
「あああ!?申し訳ありません!お許しくださいいぃぃっっ!!」
すぐさまゼロスがLに土下座して謝る。
『まあ,リナ=インバースには何もしないって言ったしねえ。今回は許してやるよ。』
ガウリイが真剣な目をする。「それで,リナはどうした?」
その目にはゼロスやLでさえも驚きを隠せなかった。
『ほう・・・。なかなか良い目をするねえ。気に入ったよ。安心おし。彼女は眠っているだけさ。本人は死んだと思い込んでいるようだけどね。』
その言葉に二人は目に見えて安堵する。それを見たLはまたクスクスといかにも愉快そうに笑う。
『本当に見ていて面白いねえ。お前達は。リナが望んだ願いも楽しかったが。』
その言葉にゼロスが眉をひそめる。
「・・・・リナさんが貴女に出した望みとは一体なんだったのでしょうか?」
意地悪そうな笑みを浮かべる。
『・・・・知りたいかい?』
こくこくと二人が人形のように首を振った。
『リナの望みは・・・。』

―あたしの望みは・・・・あの二人の本当の気持ちを確かめることよ。あたしをどう思っているのかが知りたい。―

―ゼロスを魔族から人間にしてくれとか言うものだと思ってたよ。―

―魔族だと何かと便利だからね。それに魔族じゃないゼロスなんてゼロスじゃないわ。―

―そんな望みのためにあたしを呼び出すことにしたの?―

―ええ。他人には何でもない望みだろうけど,あたしにとっちゃ世界と引き換えにしても構わない望みだわ。―

―二人が望みどおりの答えを返さなかった場合はどうするんだい?―

―・・・二人にあたしを好きでいて欲しいと言うのはあたしの単なるわがままよ。どうする気もないわ。―

―分かったよ。どう思っているのかは自分で聞くんだね。ただしお膳立てはしておいてやる。望みがかなったら二人を呼び出して呪を唱えるんだ。他人は近づけてはいけないよ。―

―分かったわ。―


『・・・そしてリナの望みはかなった。あんた達がリナの気持ちに応えた形となってね。』
静寂の後,ゼロスが涙を流し,ガウリイが黙り込む。本体は涙など流すはずがないのに全く器用な奴である。
「リナさんはあの時,僕に気持ちを言わせたかったんですね。ガウリイさんの時も・・・・。わざと怒らせるようなことをしたのはそのため・・・・・。」
「リナ・・・・。それで?リナの身体を乗っ取っているってことはまだ用があるってことだよな。これ以上何の用なんだ?俺たちとはもう喋っただろう?」
『この世を混沌に帰す・・・・。』「「!!」」
『・・・・・・なんてのは冗談だけど。あたしはリナ=インバースにお前達への気持ちを聞いた。お前達にも聞かなきゃフェアじゃないだろう?』
「・・・・は,はあ・・・。そういうものですか。」
『・・・・じゃあ,ガウリイとやら。お前から聞こうかね。』
Lの身体から暗闇が噴き出し辺りを包む。


三人はLの作り出した闇に包まれ,切り取られた空間にいた。ガウリイの瞳の色に合わせてか周囲は蒼く光り輝いている。
『ガウリイ。お前はリナのことをどう思っているんだい?』
辺りを仄かなライティングの明かりだろう小さな光が照らし出した。薄暗い闇の中でLが笑っているように見えた。
「・・・リナのこと・・・?」
『そう。お前はリナに自分の気持ちを告白したね。お前が好きだと。ずっと前から愛していたと。だが,見るものによってはあれは仕方なく告白したように見えるかもしれないよ?』
「!?」
『だってそうだろう?あの時お前はリナが正気に戻っているなどと知らなかった。自分がリナのいいように返事を返せばリナが元に戻るかもしれない。そう考えたのではないかと思う輩は腐るほどいる。そうなった場合お前はどうする気だね?それが聞きたいのだよ。』
「・・・・・・それは・・・・ない。確かにあの時俺があいつの望む答えを出せばリナが正気に戻るかもしれない。そう考えたのは・・・・・事実だ。認める。」
苦渋に満ちた顔でガウリイはしっかりとLを見つめた。
『ほう。ならお前はそう考えてリナに好きだと答えたんだね?』
「それは違う!!あの時俺が思ったことは事実だが,好きだと言ったことに嘘はない!それにそんなことは考えても実行に移すことは出来ない!」
『・・・・何故だい?』
「そんなことをすればリナが俺に愛想を尽かせて離れていくのは目に見えている!俺にはそっちの方が怖いんだ!・・・・・・・リナに傍にいて欲しいんだ・・・・。」
『確かに。あの娘なら離れていくどころかドラグ・スレイブを何発放ってもお前を許しそうにはないねえ。いいよ。よく分かった。次は・・・・・お前の番だね。獣神官ゼロス。』
Lが指を鳴らすと,蒼い光が紫色に輝きだす。ゼロスの目と同じ色。
『さて,ゼロス。ガウリイには質問は一つだけだった。でもお前には聞きたいことがたくさんあるんだよ。お前は魔族だね。獣神官という獣王を守る立場にあるお前が何故人間の小娘に惚れたのかを教えてもらおうかね。』
にこにことゼロスが笑う。
「分かりません。」『・・・・は?』
なおもにこにことゼロスは笑う。その目は笑っていなかったが。
「そんなの分かるわけないじゃないですか。でも今の僕にはリナさん以外目に入らないのは確かだと思いますよ。」
『そうかい。リナのどこがいいのかねえ?胸もないし,まだまだ幼児体系だし。盗賊が怯えるほどの暴れ者だというじゃないか。魔族のお前の目に止まるほどの者とも思えないが。』
「どこがいいんでしょうねえ。ですが,例えばL様。リナさんの姿をなさっていますが,僕にはただの小石と同じ様に見えますよ。」
Lの顔が引きつる。リナの姿を借りているとは言え,リナもかなりの美少女である,見た目は。
それなのにただの小石と言われてはプライドが許さないだろう。
『いい度胸をしているねえ。この身体はリナ=インバースだよ?お前の愛しい?何が気に入らない?』
「それこそが答えにはなりませんか?僕はリナさんの外見ではなく,中身に惚れたんですよ。彼女と貴女では性格が違う。だから僕には別人に映りますよ。」
『なるほどね。では聞くが,お前の惚れた中身とはどんなものか?』
「最初はリナさんをただの人間と思っていました。僕達を見た途端恐怖に怯え,逃げ惑う。僕には彼らは餌にしか見えない。リナさんもそんな人間の一人だと思っていました。でも違った。
彼女は僕が魔族と気付いた後も前と変わらず僕と話し,笑い,怒りました。僕にはそれが興味深かった。
もっとリナ=インバースと言う人間を知りたいと思うようになってしまったんです。」
あの時。初対面であるゼロスが使った魔法を見て瞬時に魔石で増幅されたものだと見抜かれた。
魔石を自分に売れと交渉を迫ったリナを見た時。一瞬彼女に目を奪われた。その瞳の中の強い意志に。
「・・・・思えばあの時から僕はリナさんを好きだったのかもしれませんね。」
ゼロスは苦笑する。Lが閉じていた目を開いた。
『・・・リナのためならお前は魔族から追放されるのも厭わない。それほど愛していると言うのかい?』
いつもは笑った目をしているゼロスの目が細く開かれ,紫紺の瞳が露になった。
「それこそ僕の至上の幸せですね。そうなれば僕はずっとリナさんと一緒にいられる。
彼女は僕が追放されたのは自分のせいだと思い,その罪の意識がある限り僕から逃れられなくなりますからね。」
ゼロスが残忍に笑う。Lの声が呆れ返る。
『そこまでして一緒にいたいのかい?たかが人間の小娘に?何故そこまでする?』
「貴女にはたかが,でも僕にはリナさんというたった一人のかけがえのない方です。彼女が人間だからです。
だから僕はそこまでしてでもリナさんの傍にいたい。・・・彼女に対するそれ以上の暴言はやめていただきましょう。それ以上はいかなL様でも許しておけません。」
ゼロスが言い切るとLは身体を震わせている。何か気に触ったことを言っただろうか。
あそこまで啖呵を切っておきながら今更になって不安になってきたゼロスだった。
「・・・・あ・・・あの・・・・L様?」
『あっはっはっはっは!・・・面白いよ。このあたしに啖呵を切ったのはお前が初めてだよ,ゼロス。本当に愉快だねえ。ガウリイの答えも十分に楽しませてくれたし。リナの周りには面白い輩が集まるようになっているんだろうねえ。』
「それはどういう意味ですか?」「それはあまりにも酷いんじゃないか?」
『・・・じゃあ本題に入ろうか。お前達。本当にリナのことが好きなんだね?』
「ああ。」「もちろんです!」
『だがリナはお前達を二人とも好きだと言っている。両方とも大切な存在だと言っている。比べられないほど二人とも愛していると言っている。お前達はどうするつもりだい?』
「それは・・・・。」「いや・・・どうしよう?」
戸惑っている二人を見てLが笑いながら出した言葉は突拍子もないものだった。
『・・・お前達。リナ=インバースを共有する気はないかい?』


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