魔性の瞳


ガウリイとゼロスは言葉を聞いた瞬間,Lから距離をおいて何やらごそごそと話しだした。
「なあ。魔族の偉い奴って皆あんな感じなのか?」
「いえ。僕の知る限り獣王様だけでしたが・・・。上に行けば行くだけテーソーカンネンが欠けてくるのでは・・・・?」
「それってすごくやばいことなんじゃないか?もしもそのとおりならお前達魔族の未来は暗いぞ。」
『・・・・何をごそごそ言ってるんだい。言っとくけど全部聞こえているからね。お前達が混沌に帰ってきたときは思う存分痛めつけてあげよう。覚えておおき。』
「やだなあ。L様。ほんのお茶目なジョークですって。」「そうそう。俺達がそんなことを考えているように見えるか?」
『見える。それよりもどうなんだい?お前達。リナ=インバースを共有する気はあるかと聞いてるんだがね。』
ゼロス達の言葉にかなりご立腹だったようである。憮然とした表情のままLは質問の答えを求めた。
「・・・・そうすることで僕らに何のメリットがあるんですか?」
『おや。良い事尽くめじゃないか。考えてもごらん。お前達は最愛の女の傍にいることができる。・・・・・まあ,気に食わないのが一匹ついてくるがね。女のほうは最愛の男が二人とも手に入る。腰巾着がいることを除けばとてもいいことじゃないかい?』
黙り込んでしまった。二人とも。確かにリナの傍にいられることは魅力だ。しかしおまけがついてくる。
「・・・・ガウリイさん。」「・・・・ゼロス。」
「この際ですからこの話,僕は賛成なんですけど。」「奇遇だな。俺も全く同意見だ。ただし一つだけ問題がある。」
「?何ですか?」「・・・・・・・これを知った時リナが何て言うかだ。」
さあーっと。音がするくらいゼロスの顔が真っ青になった。・・・本当に器用な奴である。
ぎぎぎと音がするくらいぎこちなくゼロスがガウリイを振り返る。
「・・・・・ガウリイさん?それってもしかして・・・・。」
「あいつがそんな話に同意できるような性格だと思うか?俺が思うにはまず無理だな。」
そう。問題はそれであった。リナの性格では,こんなことを納得してもらうなんて不可能だろう。
何よりこの話の中でリナの意思は存在していない。おそらくこんなことを言うのではないか。
―あんたたちっっ!!あたしのいない所で何でそんな話してんのよっっ!−
そして二人ともドラグ・スレイブで吹き飛ばされるのが関の山だろう。
『お前達。あたしがいることを忘れているんじゃないだろうね?言っただろう。リナにした事をお前達にもしなきゃフェアじゃないってね。ならばリナが望みをかなえたんだから,お前達もかなえなきゃ不公平だろう?』
その言葉に二人が同時に振り向く。「かなえてくれるんですかっ?」「なら頼むっ!」
Lは満足だった。やっと本来の目的に到達できそうだったから。
「その代わり代償はなしですよっっ!」
ゼロスの言葉にLは噴き出した。『なっ・・・・何だって?!』
「だってそうじゃないですか。僕達から聞きたいだけ聞いて,そのご褒美が望み一つでは割に合いませんっ!」
「そうだそうだ!」ここぞとばかりにガウリイが黒い法衣の影から野次を飛ばす。これでは子供の喧嘩と変わらない。
『・・・・・・・分かったよ。代償は要らないよ。』「とーぜんです。」
ぴしっ!Lが手にしていたガラスの器がこなごなに砕ける。
『リナにあたしがそれを認めたのだとお言い。じゃあ,早速あたしはもといた所に帰るよ。本当はもう少しここにいたいんだけどね。お前達だってあたしにまだここにいて欲しいだろう?』
お前達、と言うのは誰を指す言葉なのだろう。生憎とLが望んでいるような考えを持つ者はいなかった。
そのかわりにさっさと元の世界に戻って欲しいと心の底から願う男が二人いた。
『そうそう。ゼロス。お前に命令があるよ。』「なんでしょうか?L様。」
『お前を魔族から追放する。』「!!」
反論しようとするガウリイを押さえ,ゼロスが尋ねる。
「・・・・・・理由をお聞かせください。」
『お前に呆れ返ったんだよ。魔族のくせに人間に恋をするなんてね。そんな男はもう魔族とは呼べない。ただの恋に溺れた一人の男だ。そんな奴が同じ魔族だと思うと寒気が走るよ。だから追放する。ついでに言うと,そんな男を裏切り者だ何だと追いかけるなんて愚かにも程があるね。魔族はお前をもう相手にしない。』
「・・・それって・・・・。」
『お前が人間の女と暮らそうが何しようが勝手にするがいい。魔族と同等の力を持っていて,本体が黒い錐だと言うことを除けば,お前は魔族ではないんだからね。あたし達が関知する理由はどこにもない。』
「・・・・・有難うございます・・・・・・・・!!」
Lは暗にこう言った。『魔族から追放すると言ったが,お前を裏切り者と処刑するような真似は絶対にしない。』
それはつまり,リナと何の障害もなく一緒にいられると言うことを指していた。
『だが,罰は与えなければなるまい。何しろ裏切り者なんだからね。』
ゼロスとガウリイが緊張に息を呑む。静寂の中Lが厳かに言った。
『・・・・・ふむ。呪いをかけてやろう。お前が魔族たる理由は永久に生きることとその本体にあった。魔族としての本体は人間体を取っているお前の身体の中に封じ込める。力はそのままにね。そして,寿命を人間と同じ寿命にしてやる。もちろん歳を追うごとにお前の身体は機能しなくなる。今のお前は人間で言う24歳になるね。』
それはつまり。リナと同じ様に年老いていき,リナと同じ様に死ぬことができると言うことだ。
力がそのままなのはリナが「力があると何かと便利」だと言ったからだろう。
『ここまでサービスする必要もなかったかねえ。さて,あたしはそろそろ帰ることにするよ。獣王には新しく部下を用意するから心配しなくていいからね。』
魔族を追放したにもかかわらず,アフターサービスが行き届いている。
だが,なんと都合のいい呪いだろうか。まるで漫画かアニメの世界である。いや,実際に漫画なのだが。
そんな一言を残してLは混沌へと帰っていった。
リナの体から黄金の光が徐々に消えていく。光が消える頃にはリナは安らかな寝息を立てていた。


「・・・ん・・・・?」リナはオレンジを基調とした部屋の中で,ふと目を覚ました。
「おお,目が覚めたか。リナ。気分はどうだ?」
「・・・・ガウリイ?・・・・あたし・・・何で・・・・?ここ,どこ・・・?」
目が覚めたばかりで状況把握ができていないようだ。
「落ち着け。今ゼロスが飯を作ってる。話はそれからだ。」
言い終える前にゼロスが大声を上げる。
「リナさん!気が付かれたんですね!大丈夫ですか!?痛いところは!?何ともないですか!?もしどこか痛ければ仰ってくださいね!!L様に抗議してきますから!!」
・・・・どこに抗議しに行くのだろうか。Lの住んでいるところは混沌である。
混沌に行くのには滅びなければならない。だが滅びはリナにもう二度と会えなくなると言うことで・・・。
だが,ゼロスにはそんなことさえも理解出来ていないようだった。
「・・・・・ゼロス。落ち着きなさい。とりあえずご飯にしましょう。お腹が空いてると何も考えられないもの。」
「はい!リナさん大丈夫なんですね!よかった・・・。あ,すぐにご飯用意します!」
・・・・・数分後,思いの外リナの衰弱が激しかったので,ベッドの上でご飯を食べているリナに男達はいつ話を切り出そうかと思っていた。
「・・・・ふう。ご馳走様。美味しかったわ。意外に料理上手なのね,ゼロス。」「有難うございます。」
「・・・・・料理上手を誉められて喜ぶ魔族って・・・・。」
「僕はもう魔族じゃありません!そもそも料理が上手いと好きな人に誉められて嬉しくない者はいませんよっ!」
思わずゼロスは突っかかったが,彼の一言にリナが眉をひそめた。どうやら墓穴を掘ってしまったようだ。
「・・・・・魔族じゃないってどういうこと?」
「あ!いや,あの。それはですね・・・。」
「金色の魔王と何を話したの?何でゼロスが魔族じゃないの?それよりもここはどこ?何であんた達がいっしょにいるの?」
立て続けに質問をぶつけられて二人は慌ててしまう。
「リナ!説明するから少し落ち着け!」
「あたしは充分すぎるほど落ち着いてるわよ!どういうことになってるのかちゃんと説明してよね!」
「分かりましたから。せめてご質問は一つずつにしていただけます?」
確かに一度に言われても困るだけだろう。
「・・・分かった。じゃあ,一つずつ質問するからちゃんと答えなさいよ。」
「分かった。俺もゼロスもちゃんと答える。」
「そうして。・・・・・まずここはどこ?」
「ここは僕の作り出した空間の中です。リナさんのイメージに合わせて色調はオレンジにしてみました。」
「・・・・あ,そ・・・・・。じゃあ,金色の魔王に会って話をしたのよね。」
「ああ。変わった人だったぞ。」「・・・・・はい。僕の元上司よりも凄まじかったです・・・。」
「・・・元・・・ね。」ぎく。だがリナはそのことには触れなかった。
「確かに変わった性格だったわね。二人は何を話したの?」
「俺は・・・・リナが好きかって聞かれたのと。リナに何で好きって言ったのか,だった。」
「僕はどうしてリナさんを好きになったのかを聞かれました。」
リナの頬が赤く染まった。
「・・・・二人は,何て答えたの?」
「俺はもちろん好きだって言ったぞ♪リナに好きだって言ったのも自分の意志だってそう言った。」
もぞもぞとリナが落ち着かない。「・・・・ゼロスは?」
「何故か分からないって言いました。」「・・・・・は?」
「リナさんを何故好きになったかなんて僕にも分からないことを聞かれても困るんですよねえ。そもそもそんなの考えるようなものじゃないですし。でも、僕から見たら世界中の人がリナさんの姿をなさっていても中身が違うから、好きにはなれないって言っただけです♪」
ぼひゅっっ!このテにリナは本当に免疫がなかった。だから少しからかっただけでも赤くなるのだが・・・。
今のリナは顔で湯が沸きそうなほど発赤,発熱していた。慌てて話題を変える。
「じゃ、じゃあ。ゼロスが魔族じゃないってどういうこと?」
困ったように二人が顔を見合わせるのを見て、リナは勝手に答えを悟ってしまったようだった。
「・・・・あたしのせい?あたしのせいで魔族を追放されたのね?」「違います!これは・・・・!」
リナの瞳が悲しそうに揺らぐ。
「あたしのせいなんでしょ?はっきり言って。」
「何だか誤解されているようですけど・・・。よく聞いてくださいね?これは、L様・・・金色の魔王様がお決めになったことなんです。」
「・・・どういうこと?」
「あの方は僕が魔族だとリナさんと一緒にいるのに支障が出るからと言って魔族から追放なさいました。だけど、僕を魔族は追い回したりしないと約束してくださいました。
それだけじゃなく僕に寿命を与えてくださいました。人間と同じ寿命をくださったんです。今の僕の本体はこの人間体であり、僕の年齢は24歳と言うことになっています。」
リナは呆気にとられていた。そしてガウリイはやっぱり何のことだか分かっていないようである。
「だから元上司・・・ね。・・・・分かった。じゃあ、最後の質問よ。」
来たか、と二人は思った。知らず背筋に冷や汗が流れる。
「何であんた達は一緒にいるの?って言うか、ゼロスの作った空間に何故ガウリイがいるの?」


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